日別アーカイブ: 2020年7月6日

ユニバーサルジョイントの使い方(18) – Shayのαとβとの具体的な数値をあてはめる

さて、前回の議論で、Shayの場合に\(\alpha\)と\(\beta\)との求め方を明らかにしましたので、MPギアの場合と同様に、駆動面に対する最終伝達面の角速度の変化を見てみたいと思います。

模型の寸法で議論ができればよいのでしょうが、MPギアのように標準的に使われているような部品がある訳ではないので、今回は実物の寸法を使うこととしました。Shayに関しては手持ちの資料があいにくと少なく、railtruckさんにご相談しデータを提供いただきました。この場を借りて深く御礼申し上げます。

まず、Serial Number 696のShayです。当初Gilpin Tramwayに導入され、その最小半径は50foot(約15m)であったとの記述があります。この条件で\(\alpha\)、\(\beta\)を求め、最終駆動面の角速度の変動をグラフ化してみます。

下図は、railtruckさんにいただいた図面から主要寸法を抜き出したものです。なお、寸法はすべてインチです(以後同様)。前回書いた通り、前の台車の駆動系の寸法と後ろの台車の駆動系の寸法とが異なりますので、それぞれについて\(\alpha\)、\(\beta\)を求める必要があります。

最小半径上で駆動軸がどう配置されるかを示したのが次の図です。CADで作図すると角度が正確にでるのはありがたいですね。導出した式で計算した値と一致することを確認しています。

早速グラフにしてみます。まずは駆動軸が円弧の内側にある場合の角速度の変動。

続いて、駆動軸が円弧の外側にある場合の角速度の変動。

この2つのグラフから言えることをいくつか挙げてみたいと思います。

まず駆動軸が円弧の外側にある場合の方が角速度の変動率が小さいということで、これは我々の直感に沿っているかと思います。

ユニバーサルジョイントの位相が揃っている場合でも、角速度の変動が±5%程度ありますが、極めて小さな回転半径に起因するものです。MPギアでは、5%に近づくあたりを境に走行のスムーズさに影響を与えるという仮説を立てましたので、この機関車も最小半径のところでは影響があったのでしょうか。

位相が揃っていなければ、駆動軸が内側にある場合、±15%近く変動しますので、もし間違えてこの構成にしていたとしたら、低速でも相当の振動になったのではないかと推測します。

後ろの台車の駆動系より、前の台車の駆動系の\(l_1\)の長さが長いことで、前の台車の角速度の変動の方が大きいのは、MPギアの時に考察した通りです。


次はSerial Number 450のShayです。こちらもrailtruckさんにいただいた図面から主要寸法を抜き出しました。このShayの特徴は、前の台車の駆動軸の寸法と、後ろの台車の駆動軸の寸法とが著しく異なることです。当然、前の台車と後ろの台車とで、角速度の変動が大きく異なることが想像されます。

これは標準軌のShayなのですが、活躍していた鉄道の曲線の最小半径に関する情報が見つかりませんでした。後述するWestern MarylandのShayが22度のカーブを走れるようにしていたという記述がありましたので、仮にこの数値を採用することとしました。こちらの情報によれば、22度のカーブというのは、半径262.042フィート(約80メートル)ということです。Western MarylandのShayに比べるとだいぶん小ぶりの機関車ですので、もっと最小半径は小さかったと想像します。もしも詳細な情報が入手できれば、後日追記します。

角速度の変動をグラフにしてみました。

いずれの場合も、角速度の変動率は1%以内には収まっていますが、これは上述したように最小半径が大きいことと、前後の寸法が違うとはいえ、ホイールベースが大きめにとってあることによると思います。

グラフでは示しませんが、最小半径を半分にしたとしても、ユニバーサルのジョイントの位相が揃っている限り角速度の変動率は2%に収まっていますので、これも大きめのホイールベースが寄与していると考えます。

ただし、前方の台車と後方の台車との駆動軸の寸法が大きく異なっていることから、前方の台車の角速度の変動は後方の台車の角速度の変動の差は大きいことがわかります。


最後は、Western MarylandのShayです。こちらは、先日書棚を整理しているときに、Train Shed Cyclopedia No.49の中に偶然見つけたものです。1945年Lima社製で、最後に製造したShayであり、かつ最大のShayです。主要寸法は下図のとおりで、これまでの2台に比べると圧倒的に大きな機関車です。前回述べたように、3つ目の台車については今回の検討対象とはしません。

上述のとおり、このShayは22度のカーブを走行できるようにしたとの記述がTrain Shed Cyclopediaの中にあります。最小半径で走行時の駆動系がどのような位置関係にあるか、を下に示します。

グラフです。

先ほどのSN 450のShayに比べても、ホイールベースはさらに大きく、駆動系の寸法にも余裕があるため、ユニバーサルジョイントの位相が揃っている場合は角速度の変動率が±1%に収まっています。実用上はほとんど問題のないレベルではなかったかと推測します。


以上、3つのShayの場合の角速度の変動を計算してみました。本当は阿里山のShayがどうやら位相が揃っていないとのことですので、どの程度の角速度の変動があるのかを確認したいのですが、正確な寸法が入手できないので、今回はここまでとします。