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Know Thy Niagaras

久しぶりに新刊の本を買いました。正確には、発売が予告された時点で予約をしていたものがようやく発刊され届いたものです。

Know Thy Niagaras
Tom R. Gerbracht
New York Central System Historical Society
ISBN 978-0-492-08187-7

New York CentralNiagaraは、数ある4-8-4の中でも、知名度、性能のいずれでもトップクラスを争う機関車ですが、その研究書の決定版となることは確実です。著者のTom Gerbracht氏は、New York Central System Historical Society(以下NYCSHS)の会長職を以前務められ、現在はディレクターという肩書きで、NYCSHSの運営の指導的な立場にいらっしゃる方です。

カラーを含む未公開の写真が数多く掲載されており、また、ALCOの公式図面が数多く含まれています。下記は、Elevation(正面図)です。

ひとつ驚いたのは、NYCもDuplexの検討をしていたということです。簡単な図が掲載されています。

Gerbracht氏によると、この本の出版に際しては、

  1. “Stochastic Print Process”を使って、印画紙のクオリティに近い写真の印刷ができること、
  2. 写真の注釈を充実させること、
  3. モデラー向けに外観に関係する図面を多く乗せること、
  4. 技術的な情報を含めつつも、一般の人に読みやすく伝えること、
  5. この一冊だけあれば困らないような本にすること、

に留意したとしたことです。

ちなみに、タイトルの中の”Thy”というのは、”Your”の古い表現のようで、日本語の訳としては”汝の”という言葉が使われることが多いようです。なにやら宗教的な意味合いを持たせたのだろうかとも思いましたが、Gerbracht氏によると「そういうつもりはない」とのことでした。

NYCSHSのWebサイトから購入することができます。Amazon.co.jpでは扱っていません。定価は$89.95で、送料が$25くらいかかるのが少々痛いところですが、再版はしないとのことですので、早めに買わないと売切れてしまうと思います。

 

John Henry

先日、「走れ!機関車」という絵本の紹介をしましたが、その記事を書いている際にアメリカに滞在していた時に買った絵本を思い出しました。ようやく探し出したので、ご紹介します。

John Henry
Julius Lester (文) Jerry Pinkney (絵)
ISBN: 978-0140566222

伝説のアフリカ系アメリカ人である「John Henry」を題材とした絵本で、コールデコット賞の次点に与えられるコールデコット・オナーを1995年に受賞した本です。

John Henryは実在した人物であったという研究もあるとのことですが、作者はそれにはこだわらず、John Henryの持っていた不屈の精神を忠実に記述しようとしてこの本を作ったと前書きに書かれています。

John Henryの伝説に共通しているのは、チェサピーク・アンド・オハイオ鉄道のトンネルの難工事で、当時最新鋭のSteam Drillと競争し、自らの腕でハンマーを振るい、見事に勝利した、という点です。結末にはバリエーションがあるようですが、この本では、勝利の直後にJohn Henryが息を引き取り、その後ホワイトハウスの芝生に埋められた、という結末となっています。

子ども向けの絵本で、日本語の翻訳も出ていないようなので、どなたにもお勧めできるとは言い難いのですが、このような絵本が出るということは、アメリカの国を形作る過程において、鉄道というのが大きな意味を持っていて、その中で活躍した人が英雄視されていたということを語っているのではないかと思います。このような側面も理解すると、よりアメリカ型を深く楽しむことができるのではないか、とも思って紹介してみました。

いつものように、アマゾンへのリンクを埋め込んでおきます。「なか見!検索」から一部のページを見ることができます。

John Henryについて詳しく知りたいという方は、まずはWikipediaをご覧になるとよいと思います。そのほか、スミソニアンチャネルの以下のYoutubeが簡単に説明しています。

多くの歌手がJohn Henryのことを歌っており、上のビデオの中でも言及されていますが、有名どころでは、カントリー・シンガーの大御所のJohnny Cashがいます。”Johnny Cash John Henry”で検索してもらえれば歌詞や動画が出てきます。

A Practical Evaluation of RAILROAD MOTIVE POWER

Paul Water Kieferは、New York Centralの設計部門で、有名なHudson(4-6-4)、Mohawk(4-8-2)、そしてNiagara(4-8-4)の設計に携わり、最終的にNYCのMotive Power and Rolling Stock部門のChief Engineerとして活躍した人です。その業績をたたえ、アメリカの機械学会(American Society of Mechanical Engineering)が、その最高の賞であるASME Medalを1947年に授与しています。

NYC Historical Societyの会報の2017年の第3号に、このKieferが1947年に出版した「A Practical Evaluation of RAILROAD MOTIVE POWER」という本の書評が掲載されていました。旧い本なので紙の本の入手は不可能かと思いましたが、インターネットの時代だけあり、検索すると電子化されたものを間単に見つけることができました。

(注:右側のページをクリックするとページを進め、左側のページをクリックすると戻ることができます。)

専門的な内容もあり、すべてを理解できたわけではないですが、私が印象に残った点をポイントだけ紹介します。

まず、この本が出版された1947年は、戦争が終わって世の中が少し落ち着いたころで、鉄道は蒸気からディーゼルへの移行の流れが明確になってきたころでしょうか。当時NYCが運用していた最新鋭の機関車は、蒸気機関車では1945年~46年にかけて製造したNiagara(4-8-4)、ディーゼル機関車では、1945年に導入したE-7、1946年に導入したF-2といったあたりです。このほか、NYCではマンハッタンからハーモンまで電気機関車を運用していました。他の鉄道に目を向ければ、ガスタービンや、蒸気タービンの機関車といった新しい方式の機関車への期待をこめて、いろいろなところで開発が進められていたところです。

Kieferは、これらの機関車の方式の比較を通じ、これからどの方式の機関車が鉄道の動力車の主流になるか、を論じています。特に蒸気機関車とディーゼル機関車とについては、NYCのもっとも主要な路線であるハーモンからシカゴまでの間で、可能な限り条件を同じくして運用して得られた、具体的な数値を用いて議論を行っています。なお、この比較のデータの詳細については、Niagaraの英語版Wikipediaのページに転載されています

これらの比較を行うにあたって、以下の「基本的な事項(fundamentals)」に注目した議論を行うということが述べられています。

  1. Availability and its dependent counterpart, utilization:  Availabilityは24時間のうち機関車が運用可能な状態にある時間の割合を、Utilizationは24時間のうち実際に運用できた時間の割合です。ざっくり言うと、24時間のうち、定期的な保守に必要な時間と故障等で利用できない時間とを除いた時間の割合がAvailability、さらに使用可能ではあるものの運用の割り当てができずに遊んでいる時間、を除いた時間の割合が、Utilizationです。当然のことながら、Availabilityは100%に近いほうが、Utilizationは、Availabilityに近いことが求められます。
  2. Over-all costs of ownership and usage: 機関車を購入し、運用するためのコスト全般を示しています。後者は、燃料費だけでなく、保守や修理、乗務員の人件費まで含みます。当然、コストは低いことが求められます。
  3. Capacity for work: 与えられた運用を余裕を持ってこなすことができる能力が必要ということです。特に、ダイヤの過密化に伴い、停止時からの、あるいは低速からの加速が重要になってきた、ということも述べられています。
  4. Performance efficiency:  熱効率、つまり燃料のもつエネルギーをできるだけ利用できることが必要、といったことが述べられています。

この後、各々の方式の機関車について、当時の最新技術や開発状況の概説があったあと、上述した蒸気機関車とディーゼル機関車の実際の運用データを中心として、以下のようなことが述べられています。

  1. AvailabilityとUtilizationについて: 旅客運用では、Availabilityは蒸気機関車のほうが優れるが、Utilizationはディーゼルのほうが優れる、貨物運用については、Availability、Utilizationのいずれについてもディーゼルのほうが優れる、という結果が述べられています。
    細かい数字に注目すると、蒸気機関車はディーゼル機関車に比べて2倍~3倍の時間を保守に要すること、ディーゼル機関車は故障等で利用できない時間が蒸気に比べて数割多い、ということが読み取れます。前者は、蒸気機関車は保守の手間がかかり、Availabilityを確保するには本質的に不利であることを、後者は、ディーゼル機関車の信頼性は当時はまだ高くなかったことを、示していると考えられます。
  2. コストについては、蒸気(S-1 Niagara、約6000hp)の1マイルあたりの運用コストは$1.13、2両編成のディーゼル(4000hp)の運用コストは$0.99であった、という結果が示されています。一方で、導入時の価格については、Niagaraの価格を100とすると、2両編成のディーゼルの価格は147とありますので、まだまだディーゼル機関車は高かったということが読み取れます。
    電気機関車については、機関車のコストよりは、発電所や送電設備のコストが高い、ということを述べています。
  3. Capacityについては、蒸気機関車、ディーゼル機関車の速度と出力とのグラフを示した上で、一般論として、蒸気機関車は加速は良くないが高速域(60mph)の出力に優れる、ディーゼルは機関車、低速域での加速が良い、というようなことが述べられています。
  4. エネルギーの効率については、ディーゼルの方が良いということが述べられています。

上の議論の「3. Capacity for work」の中に、蒸気機関車に比べたディーゼル機関車の利点として、次のようなことが述べられていますので引用します。

  1. 寒い時期の影響をあまり受けない。
  2. 重心が低い。
  3. 車輪荷重(Wheel Loading)が小さく、(ロッドなどの重量物が上下することによる)dynamic augmentがないことで、路盤へ与える影響が少ない。ただし、車輪径が小さいこと、重心が低いことは、これらの利点を一部相殺する。
  4. いくらか乗り心地が良い。
  5. 運行時の整備に要する時間が少ない。
  6. 低速域での加速が良い。
  7. 運行時に汚れることが少ない。
  8. AvailabilityとUtilizationに優れる。

最終的な結論として、4つのfundamentalsの項目について、各方式の機関車の優劣を次のように評価しています。タービン式機関車については、十分なデータがなく、今後の実際の運用の結果に基づいた評価が必要であり、この時点では、想定によるもの、とあります。

  1. AvailabilityとUtilization: 1)電気機関車、2)ガスタービン、3)ディーゼル機関車、4)スチームタービン、5) 蒸気機関車、の順に優れる。
  2. Overall Cost of Ownership and Usage: 1)ディーゼル機関車/蒸気機関車、2)電気機関車、ガスタービン/スチームタービン、の順に優れる。
  3. Capacity for work: 1)電気機関車、2)ガスタービン、3)ディーゼル機関車/スチームタービン機関車/蒸気機関車、の順に優れる。
  4. Performance Efficiency: 総合的な性能では、1) 電気機関車、2)ガスタービン機関車、3)ディーゼル機関車、4)スチームタービン機関車、5)蒸気機関車、の順に優れ、熱効率では、1)ディーゼル機関車、2)電気機関車、3)ガスタービン機関車、4)スチームタービン機関車、5)蒸気機関車、の順に優れる

この本が出版されて10年程度の内にNYCから(あるいは主要な米国の鉄道から)蒸気機関車は消えてゆくわけですが、その判断の根拠になったものと想像します。

この本を読んでいて印象的であったのは、新技術の導入に当たっては、経済的なあるいは社会的な観点で価値をもたらさなければ意味がない、というスタンスをKieferがとっていることでした。同時期ライバルのPRRが導入していたDuplex方式機関車についても、全長が長くなるとか、機構が複雑になってメンテナンスが大変になる、といったことが書かれています。また、タービン機関車についても、解決べき問題について書かれており、必ずしもその未来を有望視していたわけではないと理解しました。

やや英語が読みにくいと感じましたが、全体で65ページですので、それほど時間をかけずに読むことができると思います。私のように、1940年代~50年代のアメリカの鉄道の技術的側面、運用的側面の詳細について知りたい、という方には、お勧めできると思います。私が理解しきれなかった点については、識者の方のコメント・補足を待ちたいと思います。

「走れ!!機関車」

週末の時間のある時に、近所の子供向けの図書館で絵本の読み聞かせのボランティアをしています。この図書館が最近購入した本が、大陸横断鉄道完成時の様子をよく伝えていると思ったので紹介します。

走れ!!機関車
ブライアン・フロッカ作/絵
日暮雅道 訳
ISBN978-4-03-348340-5

米国図書館協会の下部組織である児童図書館協会(ALSC)が、アメリカ合衆国でその年に出版された最も優れた子ども向け絵本に毎年授与しているコールデコット賞を2014年に受賞した本ですので、絵本としての評価は間違いないとして、私自身は、大人が鑑賞するにも耐える「絵を主体とした歴史の記録」と言ってもよいかと思いました。

作者のブライアン・フロッカ氏は、この本を作るにあたって十分な準備をしたようです。巻末の2/3ページが参考資料の紹介に費やされており、その中に10以上の書籍、ビデオ、オーディオ、Webサイト、が列挙されています。カウンシルブラフスから大陸横断鉄道に沿ってドライブをしながら、大陸横断鉄道にゆかりのある数々の場所を自分で調べ、いろいろな人の協力を得たとのこです。協力者の中には、ユニオン・パシフィック鉄道博物館ゴールデン・スパイク・ナショナル・ヒストリック・サイトネバダ州立鉄道博物館カリフォルニア州立鉄道博物館の職員も含まれています。

本の内容は、大陸横断鉄道が完成した直後、1869年の夏に、オマハからサクラメントまでの旅を、乗客の視点、運転する側の視点の両面から描いたもので、沿線の名所の風景も含まれています。

1869年当時ですので、登場する機関車は4-4-0なのは当然として、客車のブレーキは制動手が汽笛の合図に合わせてかけていたとか、自動連結器導入以前だったので連結作業は危険を伴うものであった、といったことが絵と一緒に説明されると実感をもって理解することができると思いました。また、夕食は列車から降りて鉄道会社の食堂で20分以内に食べなければいけなかった、というような記述も面白く思いました。沿線風景では、完成直後の木造のデール・クリーク橋を通過する様子が2ページを使って描かれています。

巻末に、「アメリカの蒸気機関車について」と題したあとがきがありますが、これも簡潔ながら濃い内容です。「大陸横断鉄道はアメリカ人の生活をがらりと変えた」ということを伝える一方で、「鉄道のもたらす変化を押しつけられた立場の人たちもいた」と、先住民のアメリカ・インディアンとの戦いについて触れられていたりとか、プルマン社が1870年ごろから自社の車両の運用にアフリカ系アメリカ人を専従させるようにして、「奴隷の身分から解放されたばかりの人たちにとって、プルマン社のボーイとしての生活は、職業社会への貴重な第一歩となった」、と書かれているあたりは、趣味の対象としてアメリカの鉄道を見ているだけの我々に新たな気付きを与えてくれると思いました。

広く勧められる良い本だと思います。

こちらは、英語版です。上記のページにはない、「なか見!検索」でどんな内容か、見ることができます。

作者のページからも、一部のページの画像を見ることができます。

平岡幸三氏のライブスチームに対する思想

dda40xさんのBlog他で平岡幸三さんの講演の話が掲載されています。

「品位の高い部品を作る」というのが良い模型を作る原動力とのことですが、これを読んだ私は「設計が重要」と平岡さんが主張されているのを思い出しました。

日本放送出版協会が昭和50年11月に発行した「趣味の世界」というシリーズの第2巻、「私の模型鉄道(ライブスチーム)」という新書版の本で、8つの事例が紹介されている中の1つとして平岡さんが取り上げられています。この本が編集されたのは、平岡さんがLive Steam誌にShayの記事を連載されていたころであり、平岡さんの3台目のギアードロコであるハイスラーのV型エンジンができあがったころです。このV型エンジンの写真を見て、本当に美しい工作だとこの本を入手したときに感じたのを今でも覚えています。

古い本なので、入手が難しいかもしれないと思い、この本に紹介されている平岡さんの思想を示す部分を引用してみたいと思います。漢数字を算用数字に変更した以外は原文のままです。

まずは、シェイを作成するにあたって、平岡さんは次のような方針をたてたとのことです。当たり前のことが書いてあるようですが、まともに動く機械を作るという点で重要な方針が語られています。

①プロトタイプにできるだけ忠実に作ること。ライブ・スチームにありがちな形態の崩れを少なくし、ボルトにいたるまでなるべくプロトタイプを忠実に再現させること。

②実物のシェイと同じく大牽引力、急曲線通過の特徴を持たせる。すなわち平坦線路で大人5人以上引け、最小通過半径は1.8メートルとする。

③運転保守が容易で安全であること。どこかを点検するために、機関車全体をバラバラに分解しなければならないような構造はやめ、エンジン、台車などの各ユニットごとに簡単に取り外すことができる、というモジュール思想を取り入れて設計する。また、ボイラーの許容水面変動範囲が小さいと、運転が非常に難しくなるため、この模型では25ミリとし、十分な余裕を設けること。

この方針を受け、クランクシャフトなどの設計がいかに大変だったかというようなことが書かれており、次のように続けられています。

しかし「性能、工作、運転、保守のすべての死命を制するのは設計がよくできているかどうかです。それにライブ・スティームの楽しさの6割は、設計にあるんじゃないかと思います」という平岡さんは、まず完全な設計図を描き、それから作業に取りかかる。

(略)

製作図面は各部品ごとに、製作公差まで入れたものを描いた。できあがった模型を収納する箱まで設計してある図面は、なんと100枚以上に達している。

ここまできっちり設計してしまうと、できあがった時の姿は細かいところまで想像できるという。だから、”ちゃんと動くかな”というような心配や、夢のような期待もまったくないそうである。

この図面、全部書き上げるまでに、1100時間かかっている。製作時間は970時間だから、作っている時間より、製図をしていた時間のほうが養鶏にかかっていることになる。”楽しさの6割は設計”というのは、時間の上にもあてはまるようだ。

走行性能が第一義的に求められるライブスチームの世界では特に、まともに走るものを作るためには設計が重要と思うのですが、設計がしっかりしていることは、作るべき部品がいかにあるべきかを明確にすることにつながり、その結果自分の作っている部品をそのあるべき姿に近づけようとすることができると感じました。

平岡さんは最高峰に位置する人ですので、私がそのまま真似るのは無茶というものですが、それで諦めるのも芸がないので、自分のできることからやっていこうと考えています。

 

Steam, Steel and Stars

あまり何も書かないとずるずると書かなくなってしまうので、昔話をしつつ、本を一冊紹介してみたいと思います。

趣味の本に限らず、本屋さんをぶらぶらしながら気に入った本を見つけるのが好きです。もうずいぶんと昔の話になってしまいましたが、アメリカに初めて暮らすことになって間もないころ、かなり大きな書店を散策している時に、この本を手に取りました。「アメリカの文化/暮らし」といった、一般読者向けのコーナーに置かれていたと記憶しています。何の予備知識もなく、タイトルの「Steam」という言葉を見つけて条件反射的に手にしただけで、それが何の本なのかについては全く気にもとめていませんでした。

手にして驚いたのは、前回の記事でのワークスKさんへのコメントの中で紹介したHotshot Eastboundの写真が裏表紙に使われていることでした。そうか、ノーフォーク・アンド・ウェスタン鉄道(以下N&W)の写真集だったのか、ということを認識したのではありますが、その時点ではそもそもN&Wという鉄道に対する興味が希薄だったので、まぁ、いいかと書棚に戻しました。

ところが、どうも気になる本で、この書店に来る度には手に取ってぱらぱらめくるということを繰り返し、結局購入するに至りました。N&Wの鉄道の活躍を素晴らしい技術で写しているということもありますが、それよりもN&Wを取り巻く「人」やその沿線の街での「50年代の古き良きアメリカの暮らし」が生き生きと写されていることがこの本の魅力なのだと思います。

特に、N&Wで働く人々の表情が魅力的で、どの人も誇りに満ちた顔をしています。こんな顔をして仕事をしている人いるのだから、N&Wはきっと素晴らしい鉄道会社だった違いないと思うようになりました。またこの本の写真を撮影したO. Winston LinkがN&Wの写真を撮るようにとるようになったきっかけのエピソードにもそれを裏付けるようなことが書かれており、その後以前紹介した「N&W: Giants of Steam」とか、「The A: Norfolk & Western’s Mercedes of Steam」を購入することとなり、上記の私の思いは間違っていないと思うようになりました。

Steam, Steel and Stars
Photographs by O. WINSTON LINK
Text by TIM HENSLEY
HARRY N. ABRAMS, INC. Publishers
ISBN 0-8109-2587-7

残念ながら、現在は絶版となっているようですが、相当数が出版されたと思うので、気長に探せば入手できると思います。私は今でもちょっとした合間にこの本を手に取っています。

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Model Railroad Hobbyist


Model Railroad Hobbyistという新しい季刊誌が、今年の1月に創刊されていることを教えてもらいました。タイトル画像はこの第一号の表紙ですが、こんな雑誌見たことないし、第一何で横長の雑誌なのだ?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。それもそもはずで、これはPDF形式のオンラインの雑誌で、なんと、購読料は完全無料です。更に大胆と思われるのは、著作権はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスに準拠しているので、商用利用ではないこと、元記事へのリンクを記載すること、の2点を守れば、自由に引用してよい、という点です。

この他、ホームページ上のBlogとの連携なども図られており、インターネット時代の新しい雑誌の形態が提案されたという思いがあります。この試みがすんなり上手く行くかどうかは未知数であり、本当の成功には相当の試行錯誤が必要かと思いますが、新しいことへのチャレンジという点は、アメリカらしいなぁ、と感じました。

これまでに、第1号第2号とが発刊されています。いずれも記事のみで100ページ近くの大作です。Lite EditionとPremium Editionとがあり、コンテンツをフルに楽しむにはPremium Editionの方がよいのですが、こちらはPC(Windows)のみに限られており、ファイルサイズが巨大(100M近く)であり、またAdobe Reader 9のインストールが必要となります。もう一つ、ファイルのダウンロード時は、マウスの左クリックは使えません。右クリックで「対象をファイルに保存(Internet Explorer)」あるいは「名前を付けてリンク先を保存(Firefox)」を選択して保存してください。

以下、WebサイトのFAQ(Frequent Asked Questions)の中から、読者向けのFAQ集と、Short Answerという部分を訳しておきます。いつものように、私の力不足に起因する訳の誤りや不適切な部分がある場合は、ご指摘ください。

この雑誌はいつも無料なのですか?
(注:著作権に関する記述がありますので、ここだけ、Long Answerを訳しておきます。)
Short Answer: はい、MRH誌は完全に無料ですし、今後も完全に無料です。
Long Answer: はい、Model Railroad Hobbyistは完全に無料の、リッチメディアの電子雑誌であり、ダウンロードすること、読むことは、ずっと完全に無料です。MRHのコンテンツは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスによって保護されています。これは、新しい形の著作権であり、コンテンツの派生利用が無料であるという条件のもとで、コンテンツの自由な配布を許容するものです。

つまり、我々は、皆さんの友人の全員にMRHのコピーを配布して欲しいと思っています。そしてMRHからのコンテンツを、ウェブサイトやフォーラムに掲載したり投稿して欲しいと、思っています。MRHのウェブサイトへのリンクを必ず含めていたくということを守っていただけるのであれば、我々は、皆さんに、MRHからのコンテンツを自由に掲載したり投稿したりする自由裁量権を与えます。

我々のクリエイティブ・コモンズ・ライセンスは、我々のコンテンツを掲載する場所が無償のものであるかぎり、我々のコンテンツへのアクセスは無料である、とうたっています。皆さんは、我々の許可なしに、MRHのコンテンツを、例えば、Model Railroader誌に掲載することはできません。なぜなら、我々のコンテンツをそのように使うことは、無料ではないからです。

どうしてそんなことができるのですか
簡単です。この雑誌は広告料によってまかなわれています。

わずらわしいポップアップ広告満載の無料の電子雑誌を誰が購読したいと思うのでしょうか
われわれはわずらわしい広告は掲載しません – 特にいやがらせのようなポップアップ広告は掲載しません。以上。

リッチメディアPDFマガジンとは何ですか?
リッチメディアであるということは、PDFがインタラクティブであるということです。 – PDF中に、ビデオクリップやオーディオクリップ、3次元バーチャルリアリティイメージを含んでいます。静止画が1000語での説明に値するなら、インタラクティブなビデオ、オーディオ、回転可能な3次元イメージは、100万語での説明の価値があるでしょう。ということで、リッチメディアという言葉なのです。

MRHの一分冊あたりの標準的なサイズはどれくらいになりますか
100ページ程度の記事やコラム、そして20ページの広告を含んだフルサイズのファイルが、100メガバイト近くとなります(第一号は約80メガバイトでした)。われわれは二つのバージョンを作っています – 最高品質のグラフィックスとすべてのリッチメディアを埋め込んだプレミアムエディション、そしてダイアルアップ環境や、マッキントッシュ、Linux用のライトバージョン(20メガバイト以下)。

この雑誌は、どのスケールに注力しますか
この趣味界は、新たなHO中心の雑誌を必要としていません – われわれの意図は、すべてのスケールをある程度カバーすることです。われわれがこのことを実行しているということを明らかにするために、目次には、各々の記事がどのスケールなのかを記しています。一覧すれば、われわれがどの程度上手くやっているかがわかります。

これはすごでいすね!どうしたら評判を広げることができますか
あなたの鉄道模型の友人にメールしてあげてください。掲示板やあなたのBlogにわれわれのことを投稿してください。バナー(注:FAQのページを見てくください)の一つを、あなたのウェブページやあなたの署名に含めてください。

雑誌が無料というのはわかりますが、どうして購読手続きが必要なのですか?
広告主になりそうなところに、ある程度の購読者数があるということを示せることは、無料の雑誌にとっては更に重要となります。これに加え、購読者のみがコメントを投稿できるので、匿名のスパムを減らすことができます。雑誌は無料ですので、講読も完全に無料です。

最後にバナーの1つを載せておきます。
Model Railroad Hobbyist magazine - Totally electronic, totally interactive, totally free - Each quarterly issue, 100+ pages!

黄金時代のアメリカの旅客列車のイラスト集


O-Scale West参加で訪米中に買った本をもう一冊紹介します。

American Passenger Trains and Locomotives Illustrated
Mark Wegman
Voyageur Press
ISBN 978-0-7603-3475-1

これは、全米の黄金時代の著名な旅客列車を精密なイラストで描いたものです。実物の写真や、当時の絵葉書などの資料も含まれており、説明文も詳しく書かれていますので、読み物としても意義のある本だと思います。

著者のMark Wegman氏は、幼少期をセントルイス近辺で過ごされ、物心ついたころから、近くを通るWabashやIllinois Centralの列車を見たり、夏休みには家族で全米各地に列車で旅行をされ、アメリカの旅客列車の時代の最後を経験されたそうです。本のそでに記載された紹介文の中には、「鉄道会社のオリジナルの図面や記録、塗料の見本」を「15年以上にわたって調査した」成果であると書かれており、アメリカの旅客列車の黄金時代を記録に残そうという意欲作だと感じました。

中身は、3つの年代に分け、その年代ごとに代表的な列車を紹介しています。下記に目次を転載します。わかる範囲でWikipediaへのリンクを振っておきました。3つの年代のいずれにも、NYCの20th Century LimitedとPRRのBroadway Limitedが乗っています。永遠のライバルという感じでしょうか。

Part one: 1890s-1920s
1. The Empire State Express, Pennsylvania Limited, Lake Shore Limited and 20th Century Limited
2. The 20th Centry Limited, Pennsylvania Limited and Broadway Limited
3. The North Coast Limited
4. The Oriental Limited
5. The Olympian
6. The Alton Limited
7. The Crescent Limited
8. The Empire Builder

Part Two: 1930s
9. The M-10000 and the Zephyr
10. The George M. Pullman
11. The City Streamliners (注: City of PortlandCity of Los Angeles等の総称)
12. The Green Diamond
13. The Royal Blue, Capitol Limited and Abraham Lincoln
14. The Rockets
15. The 20th Centry Limited and the Broadway Limited
16. The Chief and Super Chief
17. The Hiawatha and the 400s
18. The Silver Meteor
19. The Daylight

Part Three: 1940s-1950s
20. The Tennessean and the Southerner
21. The City of Miami and the Panama Limited
22. The Banner Blue and the Blue Bird
23. The Empire Builder
24. The North Coast Limited
25. The 20th Centry Limited and the Broadway Limited
26. The Meteor, Firefly and Texas Special
27. The Sunshine Special, Eagle and Texas Eagle
28. The California Zephyr
29. The Shasta Daylight
30. The Sunset Limited
31. The Powhatan Arrow
32. The Olympian Hiawatha
33. The Phoebe Snow and the Capitol Limited
34. The City Streamliners (注: City of PortlandCity of Los Angeles等の総称)
35. The Super Chief
36. El Capitan
37. The Silver Meteor

amazon.co.jpでも取り扱っています。また、(amazon.co.jpではなく)amazon.comの紹介ページからは、この本の中身の一部(NYCの999の写真やイラスト)を見ることができますので、興味のある方は覗いてみてはいかがでしょうか。

[2010/9/23追記: Amazon.co.jpでも本の中身の一部が見られるようになっています。]

The Railroad PressのNYCシリーズ

ずいぶん前になりますが、The Railroad PressNYCの2冊組みの本を紹介しました。この本は、Edward May氏という、有名なNYCの写真家のコレクションから、未発表の写真を中心に選んでまとめたものです。氏の友人で、ネガコレクションを引き継いだ、Richard Stoving氏が写真を選び、解説を加えています。

Edward May氏は、古くはAl StauferのNYC Steam Power、最近では、New York Central Historical Societyが出しているSteam Locomotives of the New York Central Linesに写真を提供しているとのこと。NYC Historical Societyのサイトに、氏のコレクションの簡単な紹介があります。

さて、このシリーズ、2冊で終わるのかと思っていたら、ゆっくりとではありますが、続刊が出ています。3冊目に出たHarlem and Putnam Divisionの前書きには、Stoving氏が、「会う人会う人に『もっとないの?(Is there More?)』と言われて3冊目を出すことにした」と書いています。

私も、出張時の合間等にゆっくりと買い揃えていたのですが、先日O-Scale Westに参加した時に、これまで出ている5冊をようやく揃えるまでに至りました。

それぞれを簡単に紹介すると、以下のようになります。

New York Central Power Along the Hudson(Vol.1 Harmon/Vol.2 Oscawana to Albany)
この2冊は、ハドソン川沿いのNYCの本線での機関車の活躍を収録しています。

New York Central on the Harlem and Putnam Division
これは、Harlem & Putnam Divisionという、ニューヨークからハドソン川の東を走る支線の写真を収録しています。小型の機関車でが多く、ローカル線の風情があふれる写真が多数掲載されています。Harlem Divisionは、現在のMTA(Metropolitan Transportation AuthorityMetro NorthのHarlem Lineに引き継がれていると思われます。

New York Central Steam Power West of Buffalo – Vol. 1
New York Central Steam Power West of Buffalo – Vol. 2
この2冊は、NYCの本線のニューヨーク州の一番西の拠点であるバッファローの西側での本線、支線、子会社の機関車が多数収録されています。ミズーリ、イリノイ、インディアナ、ミシガン、オハイオ、ペンシルバニア、ウェストバージニア、オンタリオ(カナダ)、ニューヨークと、州ごとにまとめられています。

前の記事にも書きましたが、このシリーズは、写真が大判で、印刷も良く、何よりソフトカバーで手ごろな値段なのが魅力です。蒸気時代のNYCファンの方にはお勧めできると思います。

さて、5冊そろったので、さすがにこれで終わりかと思ってこの記事を書きながら調べてみると、なんと次のNew Yrok Central Steam Power in the Empire Stateが出たとアナウンスされているではありませんか。今回は、ニューヨーク州での蒸気機関車の活躍を記録したとあります。こちらも楽しみです。

Speedwitch社のTed Cullota氏

ずいぶん前になりますが、Broadway Limited Imports(以下BLI)のニュー・ヘヴンのハドソンI-5の紹介をしました。このときの記事にも書いたのですが、この機関車の仕上がり、特にコストパフォーマンスはなかなかのものでした。この話をクラブのメンバーとしていたところ、ニューイングランド地方の鉄道に詳しいメンバーの一人から、「I-5の製品化では、Ted Cullottaという人が考証にあたった。彼はSpeedwitchという会社もやっている」ということを教えてもらいました。

先日、私がYouTubeにアップロードしたビデオの紹介もかねてI-5の出来のすばらしさを伝えるメールを本人に送ったところ、「気に入ってくれて何よりだ。(考証など)物事が正しく行われるようにというBLIの姿勢には感銘した。どんな小さなアドバイスでもそれを聞き入れ、模型にすぐ反映してくれた。高品質の模型を作ることに興味のある会社と一緒に仕事をするのは非常に気持ち良い経験だった。」とのコメントが返ってきました。BLIが、このような機種を選び、なおかつ製品としてうまくまとめた裏にはこの人のサポートがあったのだと、納得した次第です。

そして、氏が経営しているのが、Speedwitch社です。あまり知られていないのではないかと思い、紹介したいと思います。サイトを見ていただければわかるとおり、1940年代前後を中心として、蒸気機関車時代の貨車のキットデカールを出しています。私は貨車は詳しくないのですが、時代を限定し、かなり綿密な考証を行っていると思います。ワークスKさんのTrans Pacific Blogの「お役立ちサイト」の中の一番下にある、Steam Era Freight Carsを主催しているのがTed Cullotta氏だということを説明すれば、納得してもらえる方もいらっしゃるかも知れません。

一例として、Ted氏はNew Havenが専門とのことで、ボックスカーとデカールのサンプル画像を載せておきます。

また、この時代の貨車に関する本も何冊か出版しています。いずれも資料的価値は高そうです。

Steam Era Freight Cars Reference Manual, Volume Two: Tank Cars
160ページ超のらせん綴じで、1940年代のタンク車の写真を数多く掲載している。掲載している会社は、American Car & Foundry, General American Transportation, Union Tank Car, Pressed Steel Car, Standard Tank Car, Pennsylvania Tank Car, and Chicago Steel Carを含む。


Steam Era Freight Cars Reference Manual, Volume One: Box & Automobile Cars
200ページ超で、20世紀前半のBox CarとAutomobile Carの写真を数多く含んでいる。

The American Railway Association Standard Box Car of 1932
by Theodore Culotta
1932年のARAで標準として制定されたボックスカーを解説した本で、決定版を狙ったもの。この標準はその後、1397年、1937年改、Potstwar AARボックスカーに引き継がれ、すべてあわせると15万両以上が生産されたもので、歴史的には意義の大きなものである。269ページのハードカバーで、285枚の写真、14枚の図面を含んでいる。

1月末に米国に行く予定があるので、時間があれば探してみたいと思います。