図面のお話」カテゴリーアーカイブ

Single Line Stencil Fontの作成

dda40xさんが建設中のレイアウトのお手伝いをさせていただいていますが、そのためのレール敷設ゲージを切り出す際に、半径を刻印するためのフォントが必要となりました。今回必要となった数字の4、8、9、0は閉曲線を含むため、普通のフォントを使うと中が抜け落ちてしまい強度上も問題をきたします。これを防ぐためには、「Stencil Font(ステンシルフォント:切り抜き文字)」と呼ばれるタイプのフォントが必要となります。

今回のゲージの細長い形状を考えたときに、ステンシルフォントと言えども、切り抜く面積が大きくなるものは止めた方が良いと思い、線のみで構成されたフォントを探したのですが、フリーで使うことのでき、dxfフォーマットになっているものは見当たりませんでした。悩んでいるより自分で作る方が速いと思い、フォントを自作してみたのが次のものです。レール敷設ゲージに必要だったのは、数字とアルファベットの一部のみだったのでが、せっかくなので、英数字1セットすべてを揃えてみました。

Stencil Font

作図そのものは単純でしたが、文字の大きさのバランスや、文字を並べたときの見栄えを調整するのに苦労しましたし、まだまだ改良点はあると思います。ただ、印刷物のように美しさの観点での品質を求めるものではなく、「判別できれば良しとする」というのが今回の目的ですので、その点では最低限使えるレベルには達しているかと思います。

件の敷設ゲージは、レーザの出力を調整していただいたので、結果的にステンシルフォントにする必要はなかったのではありますが、上記の通り、線のみで構成されたステンシルフォントでdxfフォーマットのものが見当たらないようですし、ひょっとしてお役に立てることもあるかと思い、公開することとします。

利用いただくにあたっての条件は以下の通りです。

(1) 良識的な範囲の目的であれば、自由にご利用いただいて構いません。

(2)本フォントを使用される場合は、自己責任でご利用ください。 本フォントを使用したことで生じる結果については、直接、間接を問わず、当方は一切責任は負いません。

(3) コメント、要望はありがたく頂戴いたしますが、不具合の改修や改良については、努力はするものの、必ず対応するとはお約束できません。

(4) 改良等自由に行っていただいて構いません。その場合は、改良したものを私と同様にネット上で公開していただき、本Blogのコメント欄で一言ご連絡いただくことを希望します。

こちらをクリックしてダウンロードください → Stencil Font – 20150504

なお、ファイルはZIP形式で2つのDXFファイルが含まれています。一方は補助線つきのもの、他方は文字のみのものです。作図はJW-CADで行ないましたので、どうしてもJW-CADフォーマットが必要という方はご連絡いただければお送りします。

土木コレクション2014 HANDS+EYES

仕事で外出の帰り途に新宿駅西口を通ったら、「土木コレクション2014  HANDS+EYES」という展示会が目に留まりました。土木学会がその創立100周年を記念した事業の一環として主催しているもので、ここに示されているパネルのように、日本のランドマーク的な建築物がその設計図面とともに紹介されているほか、実物の図面も数枚展示されていました。図面好きの私にはたまらない展示会で、時間つぶしにと思ってさっと通り過ぎるだけのつもりだったところ、ずいぶんと長居をしてしまいました。

CADなど存在しない時代の図面ですので、当然手で人間が描いたものです。達人がその一本一本の線に神経を込めて描いたであろうということが伝わるようです。図面によって、つまりはそれは人によって、ということだと思うのですが、それぞれの個性があることもわかります。

設計者の頭にあるものを、製作者に伝えるためのコミュニケーションの手段というのが図面の第一義的意義であると考えています。そこに求められるのは、わかりやすさ、正確さ、スピード、だと思います。このような存在である図面と絵画のような芸術とは根本的に異なるものだと思うのですが、美しい図面を見るといつも芸術的であると感じます。絵画の巨匠の素描をみると、力強くであったり、軽やかであったり、いろいろな個性がありますが、ども線にも無駄がないと感じます。素晴らしい図面を見ていると、同じようなことを感じるのです。

11月22日土曜(ということなので、本日!)まで開催されています。お近くでお時間のあり、図面が好きという方はご覧になってはいかがでしょうか。このほか、全国各地の本屋さんで図録を入手することが可能とのことです。学会の事業ということもあると思いますが、定価650円+税、というのは良心的な価格設定だと思います。

図面を描くということ (4)

完成した図面をdda40xさんにお渡ししたところで、私の仕事は一区切りつきました。十分チェックを行ったので、あとは何もしなくてもよいはずでしたが、今振り返ってみると、現物ができあがるまでは、なんとも落ち着かない時間を過ごしていたように思います。その分、完成した車輪を見たときの感激はひとしおでした。

さて、今回感じたのは、図面を描くというのはなんと大変なことか、ということです。

以前、畳一畳以上はあろうかという実物のアメリカ型の蒸気機関車の図面の複製(青焼き)を見た時に、よくあれだけの精緻な図面を手書きで短時間で描いたものだと感心したことがあります。CADツールという文明の利器を使って尚、模型の車輪だけを描くのにこれだけ自分が悪戦苦闘したという事実を踏まえると、図面を描くという事の大変さが実感を伴って伝わってきました。

もう一つ、この青焼きの図面を見たときに、「芸術的な図面だなぁ」と感じた記憶があります。しかし、今回の経験で考えたのは、「図面」は工業的にモノを作るための手段である以上、そこで重視されるのは、「正確さ」と「スピード」であり、図面に芸術といった価値観が入り込むなどということはありえないということです。私が芸術的だと感じたのだとしたら、設計者の卓越した才能や技術が、「結果として」図面に入り込んだだけなのだろうと考え直した次第です。当時のAlco、Baldwin、Limaに、いかに優秀な設計者が集まっていたかを物語ると見るのは考えすぎでしょうか。

今回ご指導いただいた知人には、「図面とは、(設計者と製作者との)コミュニケーションの道具である」と言われました。つまりは、図面として守るべき最低限のルールを守るという前提の下、設計者が何を作りたいかが明確であり、それが製作者がわかる形に明確に表現されている図面が描ければ十分だということです。「要はわかってもらえればいいんだよ」という言葉が今でも耳に残っています。

最後に、今回図面を描くに当たって参考にした本をご紹介します。

この2冊組みは図解が豊富で、わかりやすく、参考になりました。今回描いた図面に必要な知識は、part1のみで十分でした。

図面って、どない描くねん!-現場設計者が教えるはじめての機械製図
山田 学
日刊工業新聞社
ISBN: 978-4-8445-2024-5

図面って、どない描くねん! LEVEL2-現場設計者が教えるはじめての幾何公差
山田 学
日刊工業新聞社
ISBN: 978-4-5260-5859-2

これは、いろいろな製図のルールとか、ネジの規格とかを知るのに重宝しました。

JISにもとづく機械設計製図便覧
大西 清
理工学社; 第11版版 (2009/01)
ISBN: 978-4844520245

図面を描くということ (3)

勢いとは恐ろしいもので、CADツールが自由に使えるようになると、一通りそれらしい図面ができました。そのうちの一枚が下の図面です。今振り返ると稚拙な図面ですが、これが限界でしたので、いろいろな人の意見を頂くこととしました。

特に参考になったのが、会社の先輩である知人からのコメントです。この方は、神奈川県の最高レベルの技能者に与えられる「卓越技能者」の称号をお持ちで、専門家の立場から、懇切丁寧な指摘をいただきました。要は、徹底的にダメ出しをくらったということなのですが。

まず開口一番言われたのは、「繰り返し作る可能性があるものなのだから、どこの加工業者に持っていっても、図面一式を渡すだけで見積もりしてもらえるものにしなさい」、ということです。

そのためには、図面として最低限の体裁を整えるように、と言われました。具体的には:
(1) 品名、図面番号、縮尺、材質、改版履歴など、必要事項を記入するための図面のフォーマットを決めて、それに描くこと。
(2) すべての図面に図面番号を振ること、そのためには、図面番号の振り方はしっかりと決めておくこと。
(3) 他の図面を参照する場合は、図面番号を明示すること。例えば、組立図には、使用する部品図の図面番号を、部品図中で拡大図を参照する場合は、拡大する範囲と拡大図の図面番号とを明示すること。
(4) 加工に際しての必要な指示は、簡潔な文で記入しておくこと。
(5) 図面の一覧表を作ること。

その上で、わかりやすい図面にすること、を言われました。これにはいろいろな技法があるのでしょうが、今回は
(6) (半)断面図をうまく活用すること、
を言われ、具体的にこうしたらどうか、という例を提示していただきました。

最後に、機械図面で最も重要なのは寸法入れである、ということで、
(7) 今の寸法の入れ方はでたらめなので、もう一度考えて入れなおすこと、
(8) 公差を入れること、
を言われました。

(7)について補足すると、言われたのは、「機能的に重要な意味を持つ寸法を選んで入れるように」ということです。少し考えてもらうとすぐわかると思いますが、下の2つの図面は、「モノを作る」という観点では、意味することが違うということです。

CADツールで簡単に寸法が入れられるのをいいことに、あちこちに寸法を入れていたのが、裏目に出ました。実際にどの寸法が本当に重要かを考えるのは難しい作業でした。指導いただいた知人に、「寸法入れは難しい」と感想を言ったら、「自分が図面を描く時も、いまだに、これでいいのかと自問自答しながら寸法を入れている」との答えが返ってきました。

さて、これらのフィードバックを元に、描き直したのが下の図面です。先ほどの図面に比べるとかなり進歩したことが理解してもらえると思います。ただし、(7)の寸法の入れ方は、試行錯誤の状態で、(8)に至っては、手つかずに近い状態です。ということで、現在の図面の完成度は70%というところでしょうか。とは言っても、これ以上は自分の実力を超えるので、(8)については加工業者の判断を仰ぐという前提で、今回はこれにて完了ということとしました。描きあげた図面は、各種の組立図、部品図、拡大図、併せて25枚となりました。

図面を描くということ (2)

さて、ツールにも慣れ、LoD車輪の作図を進めて行きました。さすがにCADは便利だな、と思ったのが、以下の3点です。こういう機能があったからこそ短時間で図面が描けたのだな、と感じています。紙と鉛筆で製図していたら、いまだに完成していないかもしれません。

(1) 複雑な作図が簡単にできること
コンピュータが計算を代行してくれるので、複雑な作図があっという間にできます。例えば、下の図を見ていただければわかるように、車輪の断面には、小さな半径の2つの円を、大きな半径の円でつないでいる部分があります。これを紙の上で正確に描くには、複雑な計算や作図が必要になりますが、JW-CADでは、「接円」というメニューを選び、2つの小さな円と、接円の半径を指定すれば終わりです。

(2) 部品化ができること
上で説明した作図機能は、人間が紙の上で行う作業を効率化するものですが、CADの強みは、コンピュータならではの、紙の上では不可能なことが行えることです。
その一つが、一度作図したものを部品化し、再利用できることです。

例えば、今回、直径の違う車輪を3種類作ることとなりましたが、コンタはすべてに共通です。したがって、一度描いたコンタを、部品として登録しておけば、車輪を描く際は、複雑なコンタを改めて描くのではなく、登録した部品を呼び出し、位置決めすれば終わりです。飽きっぽく、根気の続かない私にはうってつけといえるでしょう。

このようにして描いた車輪を、更に部品として登録しておけば、組み立て図も簡単に描くことができます。今回はタイトル画像のような部品を用意しましたが、車輪の組立図は、車軸、絶縁ブッシュの部品を呼び出し、車輪の半分の部品を方向を変えながら4回書き込むだけでよく、慣れれば1分程度でできあがります(下図参照)。

ただし、何でもかんでも部品にすれば良いというものではなく、本当に使いやすい部品を作るのは難度が高く、知恵が必要なところです。私も何回か登録した部品をボツにしました。

(3) 寸法入れが容易なこと
CADで作図すると、すべての長さや位置関係の情報がコンピュータに入っていますので、”ここからここまでの寸法を記入してくれ”と指示すれば、瞬時に寸法を入れることができます。あまりに便利なので、検算の意味も含め、あちこちに寸法を入れておいたのですが、これは後で痛い目を見ることになりました。

図面を描くということ (1)

dda40xさんのLoD車輪の再生産にあたり、図面描きという形でお手伝いさせていただきました。私には、新しい発見が多く、貴重な経験でしたので、感じたことを書き連ねてみたいと思います。ただし、識者の皆さんにとっては当たり前のことで、何をいまさらという話ばかりだろうと思われます。素人のたわごとということで、読み流してください。

さて、dda40xさんとお話をしている中で、「図面を描いてみましょう」ということになりました。とは言ったのは良いものの、製図なんて中学校でほんの一時期習っただけで、専門的な教育など受けたことなどありません。「ええっと、確か図面は第三角法で描くんだったよな、そもそも三角法ってどんなだったけ」、と思いながら、あちこちのサイトを覗きながら、しばし復習。

図面を描くにあたっては、紙に作図する技量も根気も時間もないので、CADツールを使うこととしました。いくつか試したのですが、MS-DOS時代からの長い歴史があり、フリーの2次元CADソフトの定番と言ってもよいJW-CADを選定。

このソフトは、多くのユーザーのフィードバックを経て長い時間をかけ、洗練されただけあって、完成度は高いと感じました。ただ、MS-DOS時代からの操作方法を引き継いでいるからでしょうか、一般的なWindowsの操作方法と直感的に異なる場合があります。例えばマウスの右クリックの使い方が独特で、最初は馴染めず、悪戦苦闘していました。ただ、タイトル画面のコンタを描いた後は、この独特な操作体系にも慣れ、実はこの操作方法は、作図を効率的に行うにはどうしたらよいか、ということをつきつめた結果なのだろう、と思えるようになりました。

コンタを描いた後、練習の意味で少し複雑なものに挑戦しようと、AARの33インチ車輪の断面図を作図しました(下図参照)。これはかなり複雑な直線や曲線が組み合わさっており、この図を描き終わったころには、JW-CADも問題なく使えるようになり、その後はスムーズに作図を進めることができるようになりました。やはり、習うより慣れろ、ということでしょうか。