勢いとは恐ろしいもので、CADツールが自由に使えるようになると、一通りそれらしい図面ができました。そのうちの一枚が下の図面です。今振り返ると稚拙な図面ですが、これが限界でしたので、いろいろな人の意見を頂くこととしました。
特に参考になったのが、会社の先輩である知人からのコメントです。この方は、神奈川県の最高レベルの技能者に与えられる「卓越技能者」の称号をお持ちで、専門家の立場から、懇切丁寧な指摘をいただきました。要は、徹底的にダメ出しをくらったということなのですが。
まず開口一番言われたのは、「繰り返し作る可能性があるものなのだから、どこの加工業者に持っていっても、図面一式を渡すだけで見積もりしてもらえるものにしなさい」、ということです。
そのためには、図面として最低限の体裁を整えるように、と言われました。具体的には:
(1) 品名、図面番号、縮尺、材質、改版履歴など、必要事項を記入するための図面のフォーマットを決めて、それに描くこと。
(2) すべての図面に図面番号を振ること、そのためには、図面番号の振り方はしっかりと決めておくこと。
(3) 他の図面を参照する場合は、図面番号を明示すること。例えば、組立図には、使用する部品図の図面番号を、部品図中で拡大図を参照する場合は、拡大する範囲と拡大図の図面番号とを明示すること。
(4) 加工に際しての必要な指示は、簡潔な文で記入しておくこと。
(5) 図面の一覧表を作ること。
その上で、わかりやすい図面にすること、を言われました。これにはいろいろな技法があるのでしょうが、今回は
(6) (半)断面図をうまく活用すること、
を言われ、具体的にこうしたらどうか、という例を提示していただきました。
最後に、機械図面で最も重要なのは寸法入れである、ということで、
(7) 今の寸法の入れ方はでたらめなので、もう一度考えて入れなおすこと、
(8) 公差を入れること、
を言われました。
(7)について補足すると、言われたのは、「機能的に重要な意味を持つ寸法を選んで入れるように」ということです。少し考えてもらうとすぐわかると思いますが、下の2つの図面は、「モノを作る」という観点では、意味することが違うということです。
CADツールで簡単に寸法が入れられるのをいいことに、あちこちに寸法を入れていたのが、裏目に出ました。実際にどの寸法が本当に重要かを考えるのは難しい作業でした。指導いただいた知人に、「寸法入れは難しい」と感想を言ったら、「自分が図面を描く時も、いまだに、これでいいのかと自問自答しながら寸法を入れている」との答えが返ってきました。
さて、これらのフィードバックを元に、描き直したのが下の図面です。先ほどの図面に比べるとかなり進歩したことが理解してもらえると思います。ただし、(7)の寸法の入れ方は、試行錯誤の状態で、(8)に至っては、手つかずに近い状態です。ということで、現在の図面の完成度は70%というところでしょうか。とは言っても、これ以上は自分の実力を超えるので、(8)については加工業者の判断を仰ぐという前提で、今回はこれにて完了ということとしました。描きあげた図面は、各種の組立図、部品図、拡大図、併せて25枚となりました。
素晴らしいご指摘ですね
今晩は。
短時間でCADを使いこなせられたとは脅威に思います。私もいくつかはCADを使ってみた事はありますが、日頃使っている物を除いて 他はなかなか習得できませんでした。
ご紹介のアドバイスさすがだと思いました。皆、当たり前の事ばかりなのでしょうが、そのどれを落としても的確な情報伝達手段にはなりえないはずです。
私も若い頃、良く先輩から、図面の中で指定する寸法の意味を良く考えろと言われた事を思い出します。全幅が100mmある長さの左から50mmと右端から50mmの位置指定では違った情報の伝達になってしまいます。もし自分の正確に欲しい寸法が左端から50mmならその値を指定すべきでしょう。
公差は結構難しい判断がありますね。実は私はCADの専門家でもなく、現場で使いこなしてきたエキスパートでもありませんし、自分の専門外です。が機会あってコミュニケーションの手段としてどうしてもそれを使わざるを得ない事がきっかけで 多少は使えるようになりました。
こんばんは。
図面を描くときは、やはり製造工程を理解していないと、とんでもない図面を描いてしまいますよね。
ずいぶんそれで失敗して、職人さんに笑われて悔しい思いをしました。
でも、ただ笑うだけでなく、図面の不備を補ってくれる人だったので、完璧にお釈迦様の手のひらの孫悟空状態でした・・・。
遅くなってしまいました
F’Trackさん、galloppinggooseさん:
いつもコメントありがとうございます。忙しい一週間だったので遅くなってしまいました。申し訳ありません。
F’Trackさんも図面を描かれていたとは驚きです。うーん、めったなことは書けませんね。
結局、当たり前のことを言われただけなのですが、一言一言が重く、それをどこまで消化できたか、というのは疑問ではあります。
寸法、特に公差はいまだ「深い闇の中」です。機会があればもう少し勉強してみたいと思っています。
galloppinggooseさんが「お釈迦様の手のひらの孫悟空状態」と仰ったことは、私も似たような状態だったので、よくわかります。もっとも、私の場合はどう考えても孫悟空以下だったと思うのですが。
galloppinggooseさんは、図面に描かれた意図を的確に読み取ることのできる、優秀な職人さんに恵まれたということだと思います。そのような人と一緒に働くことができたというのは、とても幸せなことだったのではないでしょうか。
鉛筆製図時代のコツは……
私は烏口とCADの中間、鉛筆製図時代に生きた人間ですが、このときのコツは3つでした。
一つは、「外形線や破断線の太線、寸法線や中心線の細線などが、数回コピーを重ねてもカスレたりしないようにしっかり描くこと」です。普通はシャープペンシルの0.5mmと0.3mmを使い分けていました。
二つ目は、「特に細線の、寸法線、寸法補助線や中心線において、起点と終点をキチンと止めること」です。
以上の2つはCADになって、機械が自動でやってくれますから、確実にできていると思います。これだけで本当に気品が出てきたものです。
最後の三つ目がちょっと難しいのですが、「読図者が“知りたい”と思って注視するところにそれを描いたり書き込むこと」です。これもCAD時代になって配置を自由に動かせるようになりましたから、楽になりました。
新人は専門の教育を受けてきた者でも1、2度、真っ赤に朱を入れる必要がありましたが、それで直ぐに戦力となりました。
CADの話と逸れてすみません。
ワークスKさんも手書きの時代に生きた方でしたか。
私が一番最初に製図に向き合ったのは知り合いの建築事務所でバイトをした頃です。T定規に角度定規(これは建築設計の場合しかあまり使われないと思います)、そして描く筆はシャープペンシルではなく 太い芯の入ったペンホルダーを使わされました。常に芯先を研いでいなければなりませんでした。今の方は芯研ぎ器なんて道具をご存じないかもしれません。
3つのコツ大変うなずけます。私が描いた図面は羽箒で消しゴムかすを掃除するとすぐにも線が途切れそうになりましたが、ベテランが描くとそんな時 益々冴えた線になってくるのです。不思議でなりませんでした。
3番目の配置の問題も当時は本当に頭が痛かったですね。何しろほとんど一発勝負でしたから。
管理人様、CADの話から逸れてすみませんでしたが、そんな話を聞くと とても懐かしくなってしまいました。
貴重なお話をありがとうございます
ワークスKさん:
専門家の立場での、貴重なお話をありがとうございます。
ワークスKさんが私の図面を見られたら、どう真っ赤にされるのでしょうか。怖いもの見たさで、お願いしてみたいような気が一瞬だけしましたが、考えただけで冷や汗が出てきました。
これまた貴重な話をありがとうございます
F’Trackさん:
これまた貴重な話をありがとうございます。皆さん色々と苦労されていたのですね。
私みたいな素人がCADでまがりなりにも図面を描けたというのは、技術の進歩という観点からは幸せであるという気がする一方、先人の苦労を知らずにこんなことができてしまうというのは、申し訳ないような気もします。
> 管理人様、CADの話から逸れてすみませんでしたが
いえいえ、このような実体験に基づいた有用な情報をコメントしていただくのは、大歓迎です。