月別アーカイブ: 2009年8月

By Laws and Constitution (5)

長々と続いていますが、By Laws and Constitutionの続きです。

第4条 役員の条項には、クラブの役員とその仕事が決められており、年1回の選挙の方法も、公正に行われるように細かく手続きが書かれています。

役員のポストは6つあり、以前紹介したように、以下のようになっています。

1) President(会長): 定例会議と役員会を取り仕切ること
2) Vice President(副会長): 会長の代行
3) Superintendent (監督): レイアウトの問題の発見、報告、管理、対処の指示
4) Secretary(書記): 議事録の作成、配布
5) Treasurer(会計): 予算の作成、予算遂行状況の管理/報告

面白いと思ったのが、会長の権限が上記の役職の順序で継承されていくことが明文化されていることです。日本では、副会長の権限は、「会長を補佐し」みたいな表現が一般的かと思いますが、副会長の一番最初の任務は、「会長不在のときに会長職を代行する」と決められています。同様に監督の仕事の一番最初に書かれているのは、「会長、副会長不在のときに会長職を代行する」ということで、以下、書記、会計と続いてゆきます。

このほか目に付いたのは、会計担当の役割の1つとして、毎年の予算の立案というのがあるのですが、その際の支出の優先順位が明確に決められていることです。

第5条 会議には、クラブで行う会議とその位置づけが決められています。

一番重要なのは、毎月第一金曜日に開催される、定例会議(Business Meeting)です。一番重要と書いたのは、この会議だけが「議決」を行うことができるからです。そのため、会議の定足数(quorum)も決められており、厳密に守られています。月末になると、定足数に足りるかどうかを確認するメールが飛び交うのが通例で、定足数を満たさない場合は、定例会議は延期されます。
定例会議の「議決」に必要な数は、出席者で投票の資格のある人の半分となっていますが、メンバー加入の承認、会費の改定など、重要と思われる案件については2/3となっています。

By Laws and Constitution (4)

By Laws and Constitutionの4回目です。2回か3回で終わるつもりでしたが、改めて読み返してみると、新しい発見があり、あと数回続きそうです。模型のBlogのはずなのに、お硬い話題に踏み込んでしまって、自分自身戸惑っていますが、こんなことを書いているBlogが一つくらいあってもいいだろう、ということで書き進めてゆきます。もう少しお付き合いください。

第3条 会員では、正会員、家族会員など5つのクラスの会員の定義、会費の決め方、退会の手続き、が決められています。以下、正会員を例にとって、会員になる方法、会員として持てる権利について紹介してゆきます。

会員になる方法は、以前簡単に触れました。入会意思のある人は、3ヶ月の慣れるための期間(familiarization period)を、仮会員という形でクラブに参加します。この後、定例会議で審査し、2/3の賛成で入会となります。

今振り返ると、かなり厳しい審査と思いますが、このシリーズの(3)で紹介したクラブの趣旨を共有しつつ、他のメンバーと協調ができるか、ということが問われていたのだと思います。

「協調」という言葉を補足すると、これは「自分の主張を持ちつつ、他人の主張に聞く耳を持ち、尊重する」ということです。このシリーズの(1)のコメントに書いた、

アメリカでは、「個人が対等」ということが強く意識されているので、「好きなように生きたい自分」を実現するには、「好きなように生きたい他人」を意識し、両者の折り合いをつける必要があります。

ということに相当します。なかなかニュアンスが伝えにくいのですが、日本語で連想する「協調」は、「同調」に近いと感じているので、一言補足してみました。

正会員の持つ権利として明記されているのは、クラブのレイアウトで運転をする権利、レイアウトの部屋の鍵を受け取る権利、レイアウトの建設を担当する権利、クラブの役員になる権利、などです。他のクラスの会員として持てる権利は、この一部となります。

意外なことに、正会員の権利として一番最初に書かれており、最も重要なものは、上のどれでもありません。「議決に参加する権利(right to vote)」です。これは正会員だけの特権で、他の会員が持つことのできない権利でもあります。

これが何を意味しているかということを考えてみましたが、クラブの方向性を決めるプロセスに参加し、自分の意見を反映することができる、そうして、自分たちのクラブは自分たちが動かしてゆくのだ、という意識と責任感とが持てる、ということだと思います。趣味のクラブとはいえ、運営してゆく中では、いろいろな課題が出てきます。それに対処するために、メンバーのひとりひとりが知恵を結集し、議論を尽くし、一番良い決断を下すというための権利だと思います。

こう考えると、right to voteというのは、単に多数決のときに賛成か反対かの票を投じるという権利だけではなく、それに至る議論のプロセスに参加できるという意味を含んだ、広い意味ととらえるべきなのでしょう。

By Laws and Constitution (3)

少し間が空きましたが、By Laws & Constitutionの続きです。今回は、クラブの目的を中心にご紹介します。

第1条: 名称では、組織の名前(Silicon Valley Lines)が定義されているとともに、「カリフォルニア州の法律に基づいた、非営利団体である」、ということが明記されています。

第2条: 目的には、具体的なクラブの活動の目的が、7項に分けて記載されています。ざっくり意訳すると、次のようになります。

A. 啓発を目的としたレイアウトの建設、図書ライブラリの整備、そして(実物の)鉄道に関するものの修復、を通じ、アメリカの鉄道の伝統を保存すること。

B. 模型鉄道を趣味とする人、実物の鉄道のファン、鉄道の歴史研究家が集い、知識やアイディアやスキルを情報交換するための場所を提供すること。

C. 会員や一般の人々の間で、個々人の成長やスキルの向上を図るとともに、その手助けを行うこと。

D. NMRAとその下部組織、趣味の業界、同様の興味を持っている鉄道に関する組織と協力しあうこと。

E. (一般の人々に対する)サービスの機会、ワークショップ、(NMRAなどの)大会、公共メディアを通じた定期的なコミュニケーションを通じ、この趣味界を活性化し、良くしてゆくための、啓発の機会を提供すること。

F. この組織は、メンバーの金銭上の利益を目的とするものではない。

G. この組織の活動は、特定の主義主張を振りかざしたり、政治的な活動から成ってはならない。

日本的な感覚からすると、D.やE.のあたりが目新しく思われるかもしれません。これは、NMRAに相当する組織が存在していない、というのが大きいのでしょうか。

これ以外の条文は、当然のことが書かれているように思われるかもしれませんが、ここまでこまごまと書かれているというのはアメリカならではと思います。例えば、F.とかG.など、趣味で集まる組織なので、こんなことわざわざ書かなくても、と思うのですが、こういうことまで、抜かりなく書くのがアメリカなのでしょう。裏返すと、そういう良からぬことを画策する輩がいないとも限らない、ともいえるのですが。

このように、活動の目的が詳細に言葉になっているというのは、By Laws & Constitution (1)に、ワークスKさんから頂いた、アメリカ社会の特質は……というコメントの中の、
> また意志を伝える手段は、あうんの呼吸は不可能で、必ず言葉、さらには文字を使う……ということだった思います。
という一文を反映している一例と考えてよいかと思います。

By Laws and Constitution (2)

前回の記事に沢山のコメントを頂いたので、遅くなってしまいましたが、予告したとおり、私の在籍していたSilicon Valley Linesの”By Laws and Constitution”の概要を紹介します。念のため、前回記事にも書きましたが、By Laws and Constitutionは、クラブによって異なるものであり、私個人の限られた経験に基づいて以下議論を進める、という点はご了解ください。

これは全部で11条からなっていています。

第1条 名称
第2条 目的
第3条 会員
第4条 役員
第5条 会議
第6条 幹事会
第7条 委員会
第8条 議事の運営方法
第9条 (By Laws and Constitutionの)修正方法
第10条 収入と支出
第11条 解散時の手続き

こうやって書くと、構成自体は一般的と思われますが、改めて印刷して驚いたのは、13ページもあるということです。よく読み返してみると、こんなことまで決めてあったのか、ということまで条文化されています。一例を挙げると、クラブの運営上必要となる「決議」を、どの会議で、どれだけの賛成が必要か、ということが案件ごとに決められています。

こう書くと、規則でがんじがらめに運用しているように感じられるかもしれませんが、実際はそのようなことを感じたことはありませんし、決議に必要な賛成の数が決められているからといって、多数決万能主義が横行しているわけでもありません。

クラブの会議では、皆が自分の思うことを堂々と主張していますし、意見がまとまらず、急ぎでない案件については、無理に採決に持ち込むこともありません。

このあたりの雰囲気は、以前こちらのエントリに書いたことがあります。

今振り返ってみると、ここまでしっかり決めてあると、組織の運営という観点では、透明性が確保されていて、誰が役員をやっても同じ運営ができるため、逆に議論に集中できるのかもしれない、というようなことを感じています。

いくつかの条文については、次回もう少し掘り下げてみたいと思います。

By Laws and Constitution (1)

文才が豊かとはいえない私は、Blogのネタをひねり出すのに苦労しているだけではなく、そのネタに至る書き出しをどうするかでいつも悩んでいます。ネタを見つけても、書き出しが思い浮かばずにしばらく記事にできないことも多々あります。

先日ご紹介したクラブのイベントという記事も、その一例です。このときは、苦し紛れに、ワークスKさんの掲示板で触れた、アレクシス・ド・トクヴィルの主張を引っ張り出して書き始めました。本題よりこちらに反応があったのには予想外で、ワークスKさんには、次のようなコメントをいただきました。

この中で、northerns484さんの発言にあった「米国では『人々が集まるためのルール作り』がしっかりしている」というところがポイントか、と私も思い始めました。
逆に日本では、ここのところがアヤフヤだということです。

ここの私の発言というのは、ワークスKさんの掲示板のAlco Historical Societyのスレッドに書いた以下の文です。

(トクヴィルの主張のうち)「人々が集まろうとする」という観点に注目すると、米国では「人々が集まるためのルール作り」がしっかりしていると考えています。
ご紹介したAlco Historical Societyのトップページの活動の現状の一行目には、
We have our By-Laws and Consitution written.
とあります。一般的に、By-Laws and Constitutionには、組織の目的や運営の仕組みが、事細かに定義されています。トクヴィルの主張を頭に入れてこのページを見返すと、この一行が先頭にあるというのは、大きな意味があるのでは、と感じています。

この中に書いた”By Laws and Constitution”、定款というのが一番近いと思うのですが、一体どんなことが書かれているのか、具体的なイメージが湧きにくいと思います。組織ごとに異なるものですから、どれだけ参考になるかはわかりませんが、私の在籍していたクラブのBy Laws and Constitutionで何が決められているのかを次回ご紹介したいと思います。

 

Western Pacific 668 Caboose


私がまだアメリカにいるときに、知人がカブースを買ったということを書きました。

これは、Golden Gate Railroad Museumが借りていた土地の契約が満了し、そこに置かれていたコレクションの一部がやむなく売り出された時に、その中のWestern Pacificのカブース668を、私が属していたクラブのメンバーのJohn Plocherご夫妻が購入したものです。現在、カブースはお二人の家の庭に永住の場所を得て、オフィスとして活用されています。

たかがカブースといえども、メインライン用のものですので、重量は30トン近くになり、勝手に自宅の庭に置くことはできません。当然お役所の許可が必要となるため、サンノゼの市役所との折衝でかなり苦労したようです。ただ、John Plocher氏と話をしていて印象に残っているのが、役所の人も、前例がないながらも、門前払いにすることなく、「法令を守りつつ、どうしたら設置の許可を出せるか」という観点で考えてくれた、ということです。

一番問題となったのはやはり安全性のようで、サンノゼ市の役所にこのような鉄道車両の設置に関して詳しいことがわかる人がいるはずもなく、鉄道車両の保存に関して技術や知識を持っている専門のコンサルタントに依頼して、設置方法を指導していただき、安全だというお墨付きをもらって解決したとのことです。

これは当然(?)、地元でも話題になりました。アメリカには、コミュニティーペーパーと呼ばれる、ごく狭い地域の単位に配布される新聞があります。カブースがご夫妻の自宅の庭に運び込まれた直後、Willow Glen Residentというコミュニティーペーパーの2007年5月25日号の表紙をかざりました。今回の記事のタイトル写真はこの新聞をJohn Plocher氏に頂いたものを撮影したです。記事そのものはWeb化されていてこちらから読むことが可能です。

このカブースの歴史や、設置にいたるプロセス、現状については、ご夫妻が立ち上げたサイトwp668.orgに詳しく掲載されていますので、ごらんになってください。

以前私が撮影していた写真を引っ張り出してきましたので、紹介します。

これは、2006年4月のとある休日に、クラブのメンバーが皆で集まって、線路を敷設したときにとった写真です。私も微力ながらハンマーを振り上げ、お手伝いをしたのですが、体格の良い他のメンバーに比べると非力なのは明らかで、情けない思いをしたのをよく覚えています。

この日、別の場所に保管されていたカブースを見に行ったときにとった写真が2枚続きます。ベイウィンドウに板が打ち付けられ、屋根にビニールシートがかぶせてあるのは、状態がこれ以上悪くなるのを防ぐためでした。

つぎの5枚は、2007年8月ごろ、カブースが庭に運び込まれてしばらくした後の写真です。この後、塗り替えられ、きれいな姿となっています。上記で紹介したwp668.orgをごらんになってください。

[2012年3月22日追記: Blog引越しに伴い、画像を2枚追加しました。]

 

最後に、Youtubeに掲載されている、ご夫妻の自宅に庭にカブースが運び込まれるときのビデオを2本紹介します。

これは、氏の自宅からWebカメラで撮影した早送り画像です。

これは、作業の様子を詳細に撮影したものです。