全盛期のアメリカの鉄道」カテゴリーアーカイブ

A Practical Evaluation of RAILROAD MOTIVE POWER

Paul Water Kieferは、New York Centralの設計部門で、有名なHudson(4-6-4)、Mohawk(4-8-2)、そしてNiagara(4-8-4)の設計に携わり、最終的にNYCのMotive Power and Rolling Stock部門のChief Engineerとして活躍した人です。その業績をたたえ、アメリカの機械学会(American Society of Mechanical Engineering)が、その最高の賞であるASME Medalを1947年に授与しています。

NYC Historical Societyの会報の2017年の第3号に、このKieferが1947年に出版した「A Practical Evaluation of RAILROAD MOTIVE POWER」という本の書評が掲載されていました。旧い本なので紙の本の入手は不可能かと思いましたが、インターネットの時代だけあり、検索すると電子化されたものを間単に見つけることができました。

(注:右側のページをクリックするとページを進め、左側のページをクリックすると戻ることができます。)

専門的な内容もあり、すべてを理解できたわけではないですが、私が印象に残った点をポイントだけ紹介します。

まず、この本が出版された1947年は、戦争が終わって世の中が少し落ち着いたころで、鉄道は蒸気からディーゼルへの移行の流れが明確になってきたころでしょうか。当時NYCが運用していた最新鋭の機関車は、蒸気機関車では1945年~46年にかけて製造したNiagara(4-8-4)、ディーゼル機関車では、1945年に導入したE-7、1946年に導入したF-2といったあたりです。このほか、NYCではマンハッタンからハーモンまで電気機関車を運用していました。他の鉄道に目を向ければ、ガスタービンや、蒸気タービンの機関車といった新しい方式の機関車への期待をこめて、いろいろなところで開発が進められていたところです。

Kieferは、これらの機関車の方式の比較を通じ、これからどの方式の機関車が鉄道の動力車の主流になるか、を論じています。特に蒸気機関車とディーゼル機関車とについては、NYCのもっとも主要な路線であるハーモンからシカゴまでの間で、可能な限り条件を同じくして運用して得られた、具体的な数値を用いて議論を行っています。なお、この比較のデータの詳細については、Niagaraの英語版Wikipediaのページに転載されています

これらの比較を行うにあたって、以下の「基本的な事項(fundamentals)」に注目した議論を行うということが述べられています。

  1. Availability and its dependent counterpart, utilization:  Availabilityは24時間のうち機関車が運用可能な状態にある時間の割合を、Utilizationは24時間のうち実際に運用できた時間の割合です。ざっくり言うと、24時間のうち、定期的な保守に必要な時間と故障等で利用できない時間とを除いた時間の割合がAvailability、さらに使用可能ではあるものの運用の割り当てができずに遊んでいる時間、を除いた時間の割合が、Utilizationです。当然のことながら、Availabilityは100%に近いほうが、Utilizationは、Availabilityに近いことが求められます。
  2. Over-all costs of ownership and usage: 機関車を購入し、運用するためのコスト全般を示しています。後者は、燃料費だけでなく、保守や修理、乗務員の人件費まで含みます。当然、コストは低いことが求められます。
  3. Capacity for work: 与えられた運用を余裕を持ってこなすことができる能力が必要ということです。特に、ダイヤの過密化に伴い、停止時からの、あるいは低速からの加速が重要になってきた、ということも述べられています。
  4. Performance efficiency:  熱効率、つまり燃料のもつエネルギーをできるだけ利用できることが必要、といったことが述べられています。

この後、各々の方式の機関車について、当時の最新技術や開発状況の概説があったあと、上述した蒸気機関車とディーゼル機関車の実際の運用データを中心として、以下のようなことが述べられています。

  1. AvailabilityとUtilizationについて: 旅客運用では、Availabilityは蒸気機関車のほうが優れるが、Utilizationはディーゼルのほうが優れる、貨物運用については、Availability、Utilizationのいずれについてもディーゼルのほうが優れる、という結果が述べられています。
    細かい数字に注目すると、蒸気機関車はディーゼル機関車に比べて2倍~3倍の時間を保守に要すること、ディーゼル機関車は故障等で利用できない時間が蒸気に比べて数割多い、ということが読み取れます。前者は、蒸気機関車は保守の手間がかかり、Availabilityを確保するには本質的に不利であることを、後者は、ディーゼル機関車の信頼性は当時はまだ高くなかったことを、示していると考えられます。
  2. コストについては、蒸気(S-1 Niagara、約6000hp)の1マイルあたりの運用コストは$1.13、2両編成のディーゼル(4000hp)の運用コストは$0.99であった、という結果が示されています。一方で、導入時の価格については、Niagaraの価格を100とすると、2両編成のディーゼルの価格は147とありますので、まだまだディーゼル機関車は高かったということが読み取れます。
    電気機関車については、機関車のコストよりは、発電所や送電設備のコストが高い、ということを述べています。
  3. Capacityについては、蒸気機関車、ディーゼル機関車の速度と出力とのグラフを示した上で、一般論として、蒸気機関車は加速は良くないが高速域(60mph)の出力に優れる、ディーゼルは機関車、低速域での加速が良い、というようなことが述べられています。
  4. エネルギーの効率については、ディーゼルの方が良いということが述べられています。

上の議論の「3. Capacity for work」の中に、蒸気機関車に比べたディーゼル機関車の利点として、次のようなことが述べられていますので引用します。

  1. 寒い時期の影響をあまり受けない。
  2. 重心が低い。
  3. 車輪荷重(Wheel Loading)が小さく、(ロッドなどの重量物が上下することによる)dynamic augmentがないことで、路盤へ与える影響が少ない。ただし、車輪径が小さいこと、重心が低いことは、これらの利点を一部相殺する。
  4. いくらか乗り心地が良い。
  5. 運行時の整備に要する時間が少ない。
  6. 低速域での加速が良い。
  7. 運行時に汚れることが少ない。
  8. AvailabilityとUtilizationに優れる。

最終的な結論として、4つのfundamentalsの項目について、各方式の機関車の優劣を次のように評価しています。タービン式機関車については、十分なデータがなく、今後の実際の運用の結果に基づいた評価が必要であり、この時点では、想定によるもの、とあります。

  1. AvailabilityとUtilization: 1)電気機関車、2)ガスタービン、3)ディーゼル機関車、4)スチームタービン、5) 蒸気機関車、の順に優れる。
  2. Overall Cost of Ownership and Usage: 1)ディーゼル機関車/蒸気機関車、2)電気機関車、ガスタービン/スチームタービン、の順に優れる。
  3. Capacity for work: 1)電気機関車、2)ガスタービン、3)ディーゼル機関車/スチームタービン機関車/蒸気機関車、の順に優れる。
  4. Performance Efficiency: 総合的な性能では、1) 電気機関車、2)ガスタービン機関車、3)ディーゼル機関車、4)スチームタービン機関車、5)蒸気機関車、の順に優れ、熱効率では、1)ディーゼル機関車、2)電気機関車、3)ガスタービン機関車、4)スチームタービン機関車、5)蒸気機関車、の順に優れる

この本が出版されて10年程度の内にNYCから(あるいは主要な米国の鉄道から)蒸気機関車は消えてゆくわけですが、その判断の根拠になったものと想像します。

この本を読んでいて印象的であったのは、新技術の導入に当たっては、経済的なあるいは社会的な観点で価値をもたらさなければ意味がない、というスタンスをKieferがとっていることでした。同時期ライバルのPRRが導入していたDuplex方式機関車についても、全長が長くなるとか、機構が複雑になってメンテナンスが大変になる、といったことが書かれています。また、タービン機関車についても、解決べき問題について書かれており、必ずしもその未来を有望視していたわけではないと理解しました。

やや英語が読みにくいと感じましたが、全体で65ページですので、それほど時間をかけずに読むことができると思います。私のように、1940年代~50年代のアメリカの鉄道の技術的側面、運用的側面の詳細について知りたい、という方には、お勧めできると思います。私が理解しきれなかった点については、識者の方のコメント・補足を待ちたいと思います。

Steam, Steel and Stars

あまり何も書かないとずるずると書かなくなってしまうので、昔話をしつつ、本を一冊紹介してみたいと思います。

趣味の本に限らず、本屋さんをぶらぶらしながら気に入った本を見つけるのが好きです。もうずいぶんと昔の話になってしまいましたが、アメリカに初めて暮らすことになって間もないころ、かなり大きな書店を散策している時に、この本を手に取りました。「アメリカの文化/暮らし」といった、一般読者向けのコーナーに置かれていたと記憶しています。何の予備知識もなく、タイトルの「Steam」という言葉を見つけて条件反射的に手にしただけで、それが何の本なのかについては全く気にもとめていませんでした。

手にして驚いたのは、前回の記事でのワークスKさんへのコメントの中で紹介したHotshot Eastboundの写真が裏表紙に使われていることでした。そうか、ノーフォーク・アンド・ウェスタン鉄道(以下N&W)の写真集だったのか、ということを認識したのではありますが、その時点ではそもそもN&Wという鉄道に対する興味が希薄だったので、まぁ、いいかと書棚に戻しました。

ところが、どうも気になる本で、この書店に来る度には手に取ってぱらぱらめくるということを繰り返し、結局購入するに至りました。N&Wの鉄道の活躍を素晴らしい技術で写しているということもありますが、それよりもN&Wを取り巻く「人」やその沿線の街での「50年代の古き良きアメリカの暮らし」が生き生きと写されていることがこの本の魅力なのだと思います。

特に、N&Wで働く人々の表情が魅力的で、どの人も誇りに満ちた顔をしています。こんな顔をして仕事をしている人いるのだから、N&Wはきっと素晴らしい鉄道会社だった違いないと思うようになりました。またこの本の写真を撮影したO. Winston LinkがN&Wの写真を撮るようにとるようになったきっかけのエピソードにもそれを裏付けるようなことが書かれており、その後以前紹介した「N&W: Giants of Steam」とか、「The A: Norfolk & Western’s Mercedes of Steam」を購入することとなり、上記の私の思いは間違っていないと思うようになりました。

Steam, Steel and Stars
Photographs by O. WINSTON LINK
Text by TIM HENSLEY
HARRY N. ABRAMS, INC. Publishers
ISBN 0-8109-2587-7

残念ながら、現在は絶版となっているようですが、相当数が出版されたと思うので、気長に探せば入手できると思います。私は今でもちょっとした合間にこの本を手に取っています。

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LIFE誌の写真に記録された黄金時代のアメリカの鉄道

アメリカの鉄道の黄金時代に興味をお持ちの方であれば、ライフ(LIFE)という雑誌をご存知のことと思います。タイトル画像の赤いロゴを見て頂ければ、「あぁ、あれか」とわかっていただけるのではないでしょうか。以下に、Wikipediaの説明を引用してみます(注:下記の記載には「発行されている」とありますが、紙媒体としての発行は終わっています)。

ライフ(Life)はアメリカで発行されている雑誌。写真を中心とした誌面で「グラフ雑誌」と言われる。

フォトジャーナリズムという文章記事よりも写真を中心に報道・言論を構成しようという考え方はすでにヨーロッパ(特にドイツ)で試みられていた。ライフ誌はカメラマンをスタッフという専属的な所属とし、撮影から記事・レイアウト等の編集のスタイルを一貫させ、「フォト・エッセイ」と称した。第二次大戦前から戦後復興期、テレビの本格普及前までが黄金期で、アメリカの思想・政治・外交を世界に魅力的に伝える媒体であった。

さて、New York Central System Historical Societyのサイトを見ていて知ったのですが、グーグルが、このLIFE誌の未発表のネガを、デジタル化し、検索できるようにしています。この中に、数が多いとは言えませんが、黄金時代のアメリカの鉄道関係の写真が含まれています。ライフ誌の性格上、鉄道そのものではなく、当時の社会や人々の生活の記録の一部に鉄道が含まれている、と見たほうがよいと思いますが、逆に普段みることのない写真が多く、貴重な資料になっていると思います。なにより、プロのカメラマンが撮影したものですから、非常に質の高い写真ばかりです。

検索するには、このサイトでキーワードを入力するか、グーグルの画像検索サイト(英語版)で、キーワードを入力するときに、最後に「soure:life」というキーワードを追加するか、いずれかの方法をとります。日本語版のグーグルの画像検索サイトでも可能なのですが、この記事を書いている時点では、一回余計にクリックする必要があるので、おすすめしません。

少々注意が必要なのは、検索に使うキーワードです。残念ながらLIFEは一般向けの雑誌でしたので、我々が普段使っているキーワードを入力しても、所望のものが出てこない場合があります。例えば、ニューヨークセントラルの20世紀特急ですと、「20th century limited」と入れるでしょうが、実は、「20th century train」と入れた方が、検索結果が多く返ってきます。

いくつか、実例をあげてみます。以下、リンクつきのキーワード、簡単な説明、の組み合わせわせで列挙してゆきます。

まずは、この話が紹介されているNYCSHSのサイトに記載されているリンクを辿ってみます。
New York Central Railroad – ニューヨークセントラル鉄道。

ニューヨークセントラル(以下NYC)に関連する派生するキーワードで検索してみます。
20th Century Limited – NYCの看板列車の20世紀特急(20th century limited)
20th Century Train – 同上、キーワード違い
999 Empire State Express – 最近ワークスKさんのBlogで模型が紹介された、NYCの999号機が、1948年のシカゴ鉄道フェアで走行したときの写真。
Grand Central Station – NYCのメインの駅であり、NYCのシンボルでもある、グランドセントラルステーション。ここは、ニューヨーク市のシンボル的な場所でもありますので、例えばグレース・ケリーが列車に乗るところなど、鉄道以外を主題とした写真も数多く撮られています。

別の鉄道を検索してみます。
Pennsylvania Railroad – NYCで始めたので、ペンシルベニア鉄道をはずすわけにはいかないでしょう。ところが、NYCよりは記録されている写真の数が少ないようです。看板列車のブロードウェイ特急の写真も見あたりません。ペンシルベニアと言えば、流線型機関車をデザインしたレイモンド・ローウィーを検索してみたくなりますが、こちらも、本人のポートレート写真が出てくるばかりで、我々の期待する結果は返ってきません。
Norfolk Western – ノーフォーク・アンド・ウェスタン鉄道
Roanoke – ノーフォーク・アンド・ウェスタン鉄道については、その蒸気の大部分を製造した工場のあったRoanokeも検索すべきでしょう。
Santa Fe Railroad – サンタフェ。これは結構難しく、「Santa Fe」で探すと、ニューメキシコのサンタフェ市の写真がたくさん出てきます。「Atchison Topeka Santa Fe」で探すと何も結果がでません。サンタフェの正式名称は「Atchison Topeka & Santa Fe Railway」ですので、「Santa Fe Railway」を入れるとやはり何も結果がでず、「Santa Fe Railrod」と入れると、ある程度絞り込まれた結果が返ってきます。
Southern Pacific – サザンパシフィック鉄道。
Union Pacific – ユニオンパシフィック鉄道。意外なことに、これもあまり数がありません。

少し角度を変えて検索すると、
locomotive – 単純に「機関車(locomotive)」と入れてみると、面白い写真が出てきます。ペンシルベニア鉄道の、流線型デュプレックスS-1が、ニューヨークワールドフェアに展示された時の写真、C&Oのスチームタービン機関車の写真、など。

他にも、いろいろなキーワードが考えられると思いますが、きりがないので、このくらいに
しておきましょう。みなさんもお楽しみください。

黄金時代のアメリカの旅客列車のイラスト集


O-Scale West参加で訪米中に買った本をもう一冊紹介します。

American Passenger Trains and Locomotives Illustrated
Mark Wegman
Voyageur Press
ISBN 978-0-7603-3475-1

これは、全米の黄金時代の著名な旅客列車を精密なイラストで描いたものです。実物の写真や、当時の絵葉書などの資料も含まれており、説明文も詳しく書かれていますので、読み物としても意義のある本だと思います。

著者のMark Wegman氏は、幼少期をセントルイス近辺で過ごされ、物心ついたころから、近くを通るWabashやIllinois Centralの列車を見たり、夏休みには家族で全米各地に列車で旅行をされ、アメリカの旅客列車の時代の最後を経験されたそうです。本のそでに記載された紹介文の中には、「鉄道会社のオリジナルの図面や記録、塗料の見本」を「15年以上にわたって調査した」成果であると書かれており、アメリカの旅客列車の黄金時代を記録に残そうという意欲作だと感じました。

中身は、3つの年代に分け、その年代ごとに代表的な列車を紹介しています。下記に目次を転載します。わかる範囲でWikipediaへのリンクを振っておきました。3つの年代のいずれにも、NYCの20th Century LimitedとPRRのBroadway Limitedが乗っています。永遠のライバルという感じでしょうか。

Part one: 1890s-1920s
1. The Empire State Express, Pennsylvania Limited, Lake Shore Limited and 20th Century Limited
2. The 20th Centry Limited, Pennsylvania Limited and Broadway Limited
3. The North Coast Limited
4. The Oriental Limited
5. The Olympian
6. The Alton Limited
7. The Crescent Limited
8. The Empire Builder

Part Two: 1930s
9. The M-10000 and the Zephyr
10. The George M. Pullman
11. The City Streamliners (注: City of PortlandCity of Los Angeles等の総称)
12. The Green Diamond
13. The Royal Blue, Capitol Limited and Abraham Lincoln
14. The Rockets
15. The 20th Centry Limited and the Broadway Limited
16. The Chief and Super Chief
17. The Hiawatha and the 400s
18. The Silver Meteor
19. The Daylight

Part Three: 1940s-1950s
20. The Tennessean and the Southerner
21. The City of Miami and the Panama Limited
22. The Banner Blue and the Blue Bird
23. The Empire Builder
24. The North Coast Limited
25. The 20th Centry Limited and the Broadway Limited
26. The Meteor, Firefly and Texas Special
27. The Sunshine Special, Eagle and Texas Eagle
28. The California Zephyr
29. The Shasta Daylight
30. The Sunset Limited
31. The Powhatan Arrow
32. The Olympian Hiawatha
33. The Phoebe Snow and the Capitol Limited
34. The City Streamliners (注: City of PortlandCity of Los Angeles等の総称)
35. The Super Chief
36. El Capitan
37. The Silver Meteor

amazon.co.jpでも取り扱っています。また、(amazon.co.jpではなく)amazon.comの紹介ページからは、この本の中身の一部(NYCの999の写真やイラスト)を見ることができますので、興味のある方は覗いてみてはいかがでしょうか。

[2010/9/23追記: Amazon.co.jpでも本の中身の一部が見られるようになっています。]

The Railroad PressのNYCシリーズ

ずいぶん前になりますが、The Railroad PressNYCの2冊組みの本を紹介しました。この本は、Edward May氏という、有名なNYCの写真家のコレクションから、未発表の写真を中心に選んでまとめたものです。氏の友人で、ネガコレクションを引き継いだ、Richard Stoving氏が写真を選び、解説を加えています。

Edward May氏は、古くはAl StauferのNYC Steam Power、最近では、New York Central Historical Societyが出しているSteam Locomotives of the New York Central Linesに写真を提供しているとのこと。NYC Historical Societyのサイトに、氏のコレクションの簡単な紹介があります。

さて、このシリーズ、2冊で終わるのかと思っていたら、ゆっくりとではありますが、続刊が出ています。3冊目に出たHarlem and Putnam Divisionの前書きには、Stoving氏が、「会う人会う人に『もっとないの?(Is there More?)』と言われて3冊目を出すことにした」と書いています。

私も、出張時の合間等にゆっくりと買い揃えていたのですが、先日O-Scale Westに参加した時に、これまで出ている5冊をようやく揃えるまでに至りました。

それぞれを簡単に紹介すると、以下のようになります。

New York Central Power Along the Hudson(Vol.1 Harmon/Vol.2 Oscawana to Albany)
この2冊は、ハドソン川沿いのNYCの本線での機関車の活躍を収録しています。

New York Central on the Harlem and Putnam Division
これは、Harlem & Putnam Divisionという、ニューヨークからハドソン川の東を走る支線の写真を収録しています。小型の機関車でが多く、ローカル線の風情があふれる写真が多数掲載されています。Harlem Divisionは、現在のMTA(Metropolitan Transportation AuthorityMetro NorthのHarlem Lineに引き継がれていると思われます。

New York Central Steam Power West of Buffalo – Vol. 1
New York Central Steam Power West of Buffalo – Vol. 2
この2冊は、NYCの本線のニューヨーク州の一番西の拠点であるバッファローの西側での本線、支線、子会社の機関車が多数収録されています。ミズーリ、イリノイ、インディアナ、ミシガン、オハイオ、ペンシルバニア、ウェストバージニア、オンタリオ(カナダ)、ニューヨークと、州ごとにまとめられています。

前の記事にも書きましたが、このシリーズは、写真が大判で、印刷も良く、何よりソフトカバーで手ごろな値段なのが魅力です。蒸気時代のNYCファンの方にはお勧めできると思います。

さて、5冊そろったので、さすがにこれで終わりかと思ってこの記事を書きながら調べてみると、なんと次のNew Yrok Central Steam Power in the Empire Stateが出たとアナウンスされているではありませんか。今回は、ニューヨーク州での蒸気機関車の活躍を記録したとあります。こちらも楽しみです。

執念 (2)

お久しぶりです。前回記事からまたまた2ヶ月近くあいてしまいました。国内外への出張が続き、blogを書く時間がなかなかとれなかったというのもありますが、一回ペースが乱れるとなかなか元にもどすのが大変ですね。

さて、前回は、Ed King氏のN&WのAクラスの本の改訂版の話題を書きましたが、この記事を書いたのには伏線があります。

ちょうど、Ed King氏の本を購入したのとほぼ同時に、ということは1994ごろですが、Lewis Jeffries氏のまとめられた”N&W: Giants of Steam”という本を購入しました。Ed King氏の本がAクラス(2-6-6-4)に集中しているのに対し、この本はN&Wの蒸気を形式ごとに網羅した本で、N&Wの機関車の全体像を知るには最適の本です。

で、ご存知の方も多いと思いますが、2005年の終わりから2006年のはじめごろ、この本も改訂版が出ました。

N&W: Giant of Steam
Colonel Lewis Ingles Jeffries
ISBN: 0-9704794-5-x
The Norfolk and Western Historical Society, Inc.

改訂内容は、以下にありますが、「1) 新しい写真、2) (機関車)運用の方針を詳しく、3) 機関車の変化を詳しく、4)蒸気機関車に使ったテンダーの効果、5) N&Wの前身の会社の機関車等に関する章を追加、6) ディーゼルの章を大幅に拡充」とあります。

New to the revised edition are dozens of new photographs, greater coverage about the operating policies and conditions, increased coverage of changes to each class of power and individual locomotives, the effect of tenders used with it steam power, a new chapter about the N&W’s predecessor and non-standard classes of power and a greatly expanded chapter on diesels.

実際に初版と改訂版とを比べて見ると、例えば、クラスJ(4-8-4)の章では、特急ポワタン・アロー号(Powhattan Arrow)号の写真や当時のパンフレットがカラーになっている点が変わっています。全体のページ数でみると、333ページから350ページに増えているだけですので、そんなに増えたようには見えませんが、驚くべきは、調査のためにインタビューした人の数や参考とした資料の数が、39から129と、倍以上になっていることです。それだけ、綿密な調査・検証をこつこつと行ったと見てよいのではないでしょうか。

さて、初版が出たのが1980年で、改訂版の出版が2005年とありますので、なんと25年!を経て改訂されたことになります。著者のJefferies氏はずっと陸軍にお勤めだったそうですが、初版では少佐(Major)の肩書きで、ヘルメットをかぶって双眼鏡を手にした現役軍人のいでたちで紹介されていますが、改訂版では退役時の肩書きの大佐(Colonel)で、クラスA-1218の前でタイ姿の写真で紹介されているのが、時の経過を物語っているようです。

改めて「はじめに(Prologue)」や「謝辞(Acknowlegements)」の章の著者の言葉を見ると、いかにJefferies氏がN&Wに惚れ込んで、自分がその記録を出したいと思っているかが伝わっているような言葉を見ることができます。

N&W steam is a story that must be told — N&Wの蒸気の物語は、語り継いでゆかなければならないものである。(著者がN&Wの歴史にかかわるようになって思ったこと)

… the main intention of the author is to put on record what this extraordinary railroad accomplished. … This book, then, is a tribute to these N&W men “of vision and of accomplishment.” — 著者の意図は、この並外れてすばらしい鉄道(N&W)が成し遂げたことを記録することである。 … この本は、ビジョンを持ちつつ偉業をなしとげたN&Wの人々に贈るものである。(この本の楽しみ方について記した部分にて)

こういう思いを初版出版後25年継続して改訂版を出したということは、これもやはり執念と呼ぶべきものでしょう。

執念

私は『ナントカは風邪をひかない』という典型例のようで、ここ何年も風邪とは無縁だったのですが、先々週の出張の帰路で熱っぽくなり、喉の調子もおかしくなり、時差ぼけもあって、帰国後そのまま週末寝込んでしまいました。

ということで、ここのところ目指してきた週一回の投稿があえなく途切れてしまいました。このままずるずるとゆくと、また半年以上ほったらかすことになってしまうと思われるので、軽い内容から復活してゆきたいと思います。

さて、前にも書いたのですが、Jクラス(4-8-4)から始まってN&W全体に興味が広がっていったという経緯で、Ed Kingの”The A: Norfolk & Western’s Mercdes of Steam”という本を買いました。確か1994年ごろだったと思います。

King氏のクラスAに対する思いを感じることのできる良書で、例えば一つの章を割いて、他鉄道の機関車(Allegheny、Bigboy、など)に比べてクラスAがいかに優れているかをKing氏なりの根拠で論じています。ただ、このように対象を絞った本だと、購入する人は限られていると見るべきで、1991年初版発行後、増刷されたということは聞いていません。amazon.comで探しても、200ドル以上のプレミアがついているようです。

ところが、先日N&W Historical Societyのホームページを見ていたら、この本の改訂版が出るとアナウンスされているのを見つけてびっくりしました。改訂内容は下記のとおりですが、かいつまんで言うと、「1) 初版後得られた情報の追加、2) 折込の図面の追加、3)写真の追加、によって初版に比べて大幅に内容を拡充した」、とあります。更に付録にN&Wのテンダーの話と、PennsylvaniaのQ-2(4-4-6-4 Duplex)のテストの話が追加されるともあります。

The original book about this most productive of locomotives has been greatly expanded to include much information not available to the author at the first writing, plus a foldout featuring side elevation drawings of the locomotive and the various tenders it pulled, plus many more photographs (color & B/W). Appendices covering N&W’s tenders and the testing of Pennsy Q2 4-4-6-4 conducted on the Scioto Division in August, 1948.

発売は秋になるようで、今から楽しみにしていますが、それにしても、17年前に出した本を改訂しようという意欲には恐れ入るばかりです。ここまで来ると執念と言うべきでしょうか。

出張での買い物 (1)

日本に戻ってきてもうすぐ2年になりますが、戻ってくる前に、アメリカ型を楽しむのにどういう不都合があるか、ということをいろいろと想像していました。もちろん、クラブのレイアウトでガンガン走らせることができなくなる、というのが第一番で、これはこのとおりなのですが、それを除くと、実は一番困っているのは本を買うのが不便なことです。

入手性という意味では、日本にいることで著しい不都合があるわけではありません。西山洋書まで出かけて行きさえすれば豊富な在庫がありますし、インターネットを使えば米国から直接購入することも簡単です。ただ、私が本を買う時は、「気の向いたときにふらっと出かけて」、「目に付いた本を手にとってぱらぱらとめくって」、本を選ぶというスタイルをとっています。ずいぶん前にご紹介したP&LEのBerkshireの本NYCの本なども、こうやって見つけたものです。

模型の場合も、実物を見るまでは納得できないというのは一緒ですが、それでも、インターネット上にあふれ出てくる写真や紹介記事などを総合すれば、その模型に対する自分なりのイメージを事前にかなり正確に作り上げることが可能です。

ところが本の場合、インターネット上に書評が出たとしても、内容まで見ることが出来ません。印刷の質なども実際に手にとって見ないとわかりません。予算や置き場所に制約のある私の場合、良い本であっても自分の持っている本との内容の重複を考えてパスする、ということも多々ありますし、逆に、他の内容はどうでもいいけれど未発表の数枚の写真のために買うこともない訳ではありません。

ということで、出張で米国に行く際、空き時間に模型屋さんを覗く時は、何か新しい本がないかを探すのが一番の楽しみになっています。

前置きが長くなりましたが、今回はHundman Publishingの新作を買ってきました。

Norfolk & Western …Steam’s Last Stand
Mallory Hope Ferrell
Hundman Publishing
ISBN: 978-0-945434-60-3

N&Wといえば、Jクラス(4-8-4)が有名です。どの鉄道の4-8-4も、蒸気機関車の技術を集大成して作られおり、甲乙つけがたいのですが、人気投票を行なったならばN&WのJクラスは間違いなく上位に入ってきます。当初私はJクラスという機関車に興味があっただけなのですが、いろいろと本を読んでいるうちに、この鉄道の蒸気機関車の設計思想、技術力の高さ、更に言えば会社の経営方針の奥の深さを知ることとなり、今ではこの鉄道全体が興味の対象になっています。

この本は、N&Wの最後の15年の蒸気機関車の最後の活躍を写真集にしたものですが、私の知る限り未発表の写真が多く収められています。また、今までMainline Molderに発表された図面も収録されていて、お得度は高いと思います。

Norhtern Pacificで使っていた石炭 (4:おまけ) – Rosebudの採掘現場?

2009/4/25追記:
RAILTRUCKさんから、「ストリートビューを見たら」とのコメントを頂きました。ということで、覗いてみるとやっぱりただの平地のようです。

更に調べてみると、私がこの記事を書いた2007年2月15日当時は内容が充実しているとは言えなかったWikipediaのMontana州Colstripの記述が大幅に拡充されているのを発見しました。最新版では「Colstripは、Northern Pacificが露天掘りで石炭を採掘するために作った街である」と書かれており、露天掘りの様子の写真も掲載されています。

ということで、この記事は、私の早とちりでした。深くお詫びします。キャンセルしようかとも思いましたが、いい加減なことを書いてはいけない、という戒めの意味で、このままにしておきます。

ようやくこれで、つっかえたものがすっきりしました。RAILTRUCKさん、ありがとうございました。

2007/12/30追記:
RAILTRUCKさんから、「この模様は農場で、トラクター等の入った後とは考えられませんか?渦巻き状に掘り下げているようには見えず、平面的な感じがします。」とのコメントをいただきました。確かにその可能性もありますので、下記は「保留」とさせてください。機会があれば自分で確かめたいと思います。

RAIL TRUCKさん、コメントありがとうございました&返信が遅くなって大変申し訳ありません。

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われながらしつこいとあきれるのですが、Northern Pacificの石炭のネタを続けます。

Northern Pacificが利用していたRosebudですが、「露天掘りをしていた」とありましたので、ひょっとしてその痕跡があるかとおもって、GoogleのMapを覗いてみました。

採掘していたのは、「モンタナ州Forsyth近辺のNorthern PacificのMainline沿い」とありますから、それをもとにサーチしてみると、人工的な長方形の模様をたくさん発見することができます。

拡大すると、渦巻状に地下に掘り進んでいると思われる様子が見えます。現在でも採掘をしているということでしょうか。当時の痕跡はわかりませんが、これだけ大規模に採掘し続けられているということは、Northern Pacificが使ってた当時から、簡単に大量に採掘できたということでしょうね。

しかしながら、こんなことまでわかるとは、恐るべしGoogle。

ということで、Northern Pacificの石炭については一区切りつけることにします。調べているうちに、どんどん疑問が出てきて、もっと調べてみたいことが出てきたのですが、手持ちの資料では不十分ですので、またの機会に。(もう少し余裕があればなぁ)。

ワークスKさんの疑問から、いろんなことを調べることになり、自分自身新しい発見がありました。こういうのがblog/インターネットの良いところですね。ワークスKさんに感謝です。

Northern Pacificで使っていた石炭 (3) – Rosebudの品質

さて、NPが使っていた石炭に関し、前々回の記事で参照したThomas Dresslerの本には、ligniteと書かれており、前回の記事で参照したWikipediaでは、sub-bituminous coalと書かれているのが気になりました。なんとなくすっきりしないので、Googleを使っていろいろと調べてみたところ、米国エネルギー省のエネルギー情報機関(?)/Department of Energy, Energy Information Administrationのサイトに、石炭に関する用語の定義集を見つけました。

この分類が、蒸気機関車華やかなりし頃の分類と同一かどうかというのは確認していませんが、大幅に変わるとも考えにくいので、この分類を使って、Northern Pacificがどんな石炭を使っていたか、見てみたいと思います。

まず、石炭のランクには、高い品質の順番に、無煙炭(anthracite)、瀝青炭(bituminous coal)、亜瀝青炭(semi-bituminous coal)、褐炭(lignite)の4つがあり、それぞれの水分とBTU(British Thermal Unit)とは以下のようになっているとあります。但し、BTU値は、水分とミネラル分(灰のもとになる)を除いたあとの値で、平均BTUは、採掘直後?(as received:水分とミネラル分を含む)の値です。

Anthracite/無煙炭
水分: 15%
BTU値: 2200~2800万/ton、平均2500万/ton

Bituminous/瀝青炭
水分: 20%
BTU: 2100~3000万/ton、平均2400万/ton

SemiBituminous/亜瀝青炭
水分: 20~30%
BTU: 1700~2400万/ton、平均1700~1800万/ton

Lignite/褐炭
水分: ~45%
BTU: 900~1700万/ton、平均1300万/ton

Thomas Dresslerのデータを再度引用すると、NPの使っていたRosebudは、

水分:25%
BTU:8750/ポンド = 1750万/ton

とあります(但し、tonは、ShortTon = 2200ポンドと仮定)。まず第一に、石炭の品質としては決して高くないことがわかります。

このBTU値が、水分/ミネラル分を含んでいるかどうかはわかりませんが、数字だけで分類すると、Semi-Bituminousとなります。ただ、この分類そのものが厳密なものとは考えにくいので、RosebudはLigniteだ、といっても差し支えないということでしょうか。Ligniteとしては、最もまともなレベルであることがわかります。平均的なグレードのligniteだったら、さすがにNorthern Pacificも機関車の燃料として使うことはためらったのではないでしょうか。

限られたデータからの考察ではありますが、Northern Pacificがどんな石炭を燃料としていたのか、というのがおぼろげながらわかるデータだと思います。