運転に関して」カテゴリーアーカイブ

米国での貨車の重さの設定の一例 ~RP20.1のとらえ方~

いつもお世話になっているワークスKさんのBlogに、モデルが脱線し易い4つの理由という記事が投稿されています。経験豊富かつ博学のワークスKさんらしく、さまざまな考察が加えられているのですが、私にはいささか手に余るようです。議論のポイントは貨車の重さと理解したので、長大編成を走らせる米国のレイアウト(HO)で貨車の重さに関し、どういうルールを採用しているか、というのを数人の知人に聞いてみました。

まず、私がメンバーだったSilicon Valley Linesですが、NMRA RP20.1(以下RPと略)の値の10%の範囲とすること、というルールとなっていました。ただし、これより重い分には車検は通っていましたし、むしろ「重いほうが推奨される」という雰囲気でした。これはずいぶん前に車検の話を書いたときに書きました。

別の知人が所有している個人所有のレイアウトの大型レイアウトでは、RPに従っているという、という答えが返ってきました。

もう一つ、近々紹介を予定しているCal Centralというクラブの主要メンバーに聞いたところ、厳密なルールは決めていないが、多くのメンバーはこうしている、という長文の説明が返ってきました。ざっくりポイントだけ紹介すると次のようになります。

・経験的にはNMRA RP20.1の値では若干軽いと思う。RP+1oz(1ozは約28.3グラム)以上とするようにしている。このルールにすることで脱線の可能性を大きく減らすことができる。40ftの貨車の場合だと、4.75oz(約135グラム)以上としている。話を単純にするために小数点以下を切り上げてしまうことも多い。40ftの貨車の場合だと、5oz(約142グラム)。

サンフランシスコベイエリア近辺の著名な大型レイアウト(床面積で100平方メートル前後、最大のもので約250平方メートル)でも同様(RP+1oz)のルールを採用している。これらのレイアウトにはアップダウンやカーブがあり、長編成を走らせるとカーブの急なところで軽い車両が脱線することが多い。ここで言っている長編成とは、15両~20両以上のものを指す。レイアウトによっては、40両以上とか100両以上の場合もある。

・あるレイアウトでは、貨車の重さがRP+1ozとなるように整備し、保線を完璧に行い、カプラーの高さを厳密に揃える、などの調整を行うことで、25両以上の貨車をフルスロットルで推進運転して脱線しなかったという実績がある。

・重さのばらつきにも注意が必要。編成中の相対的に軽い車両のほうが脱線しやすい。ただ、経験的には、上記のRP+1ozを守っておけば、2oz(約57g)程度のばらつきは許容できる。

「そもそもみんなRP20.1ってどうとらえているの」という質問を投げかけてみたところ、「RP25のような寸法に関する規格はちゃんと守るけれど、RP20.1のような規格はあくまで最初の拠り所と考えていて、自分たちが最善と考える数値を実験的に導き出している」という答えが返ってきました。

十分なサンプル数とは言えず、また、レイアウトの設計、走らせる列車の構成、走らせ方、などにも大きく左右されると思いますので、どれだけ有益な情報になるかはわかりませんが、少しでもご参考になればと思い紹介してみました。

最後に、Silicon Valley Linesでの長大編成の映像を紹介します。これは純粋にテスト目的で編成したもので、通常の運転会ではこの1/2~1/3の長さとなりますが、長大編成の雰囲気を味わっていただくにはよいかと思います。先頭5両で引っ張っていますが、補機を中間や最後に入れる構成とすると、一段と運転に注意が必要になると思います。

汽笛の鳴らしかた

クラブに入会後の最初の運転会で、サウンドの魅力に完全にはまってしまった私は、周りのメンバーの見よう見まねで、汽笛や鐘を鳴らしていました。まぁ、要するに適当に鳴らしていたということでしょう。程なくして、見るに見かねた?ベテランのメンバーから、汽笛の鳴らし方についてのメールが送られてきました。

以下に掲載しますが、このルールは、1976年10月31日付けの、サザンパシフィック鉄道の輸送部門の規則集(Southern Pacific Transpiration Company Rules And Regulations Of The Transpiration Department)からの抜粋だそうです。

これだけのルールを覚えるのも大変だろうということで、クラブで使うのは青字で示されたものくらいでどうか、ということになっていました。私はこれさえも覚え切れず、相変わらず適当に鳴らしていたのですが。。。

それにしても、本物の列車の乗務員は、このような組み合わせをしっかりと覚えていたのですね。これが制定された1976年当時は、無線が使えたのでしょうが、蒸気時代など、無線はなかったでしょうから、汽笛で的確にコミュニケーションしていた人たちの苦労が偲ばれます。

以下、対訳をつけてみましたが、実際の鉄道の運行に関する知識は乏しいので、自信のないところが多々あります。識者の方がいらっしゃったら、誤りや不適切な訳をご指摘いただければ幸いです。

—-
「o」は短い音(short toot)、「-」は長い音(long blast)を示す。

o = Apply brakes, stop
o = ブレーキをかける、停止する。

o = Approaching meeting or waiting points
o = 待ち合わせ地点あるいは退避地点に接近している。

oo = When standing, start
oo = 停止中の場合は、発車する。

oo = When running, stop
oo = 走行中の場合、停止する。

oo = Answer to -oo
oo = -ooに対して応答する。

-oo = On single track, to call attention of engine crews and train crews of trains of the same class, inferior trains, yard engines, and trains at train-order meeting or waiting points, to signals displayed for a following section, unless otherwise provided by timetable. Failure to receive acknowledge by signal oo must be reported
-oo = 単線上で、自分と同じクラスの列車、自分より低いクラスの列車、ヤードの機関車、そしてすれ違いもしくは待ち合わせの指示を受けた列車の乗務員に対して、特に時刻表で指定がない限り、次の区間に対する信号に注意するように促す。返信が確認できなかった場合は、報告が必要である。

-oo = Must be sounded when passing the rear of freight trains
-oo = 貨物列車の後尾を越す時には鳴らさなければならない。

-oo = On double track, to call attention of engine crews and trains crews of trains of same class and of inferior trains and yard engines, to signals displayed for a following section.
-oo = 複線上で、同じクラスの列車、自分より低いクラスの列車、ヤードの機関車の乗務員に対して、次の区間に対する信号に注意するように促す。

ooo = When standing, back
ooo = 停止時は、バックする。

ooo = When running, stop at next station
ooo = 走行中は、次の駅で停止する。

ooo = Answer to a hand, flag, or lantern movement being swung vertically in a circle at right angle to track and meaning “back”
ooo = バックを意味する、手、旗、カンテラを、線路に対して直角に、縦方向に丸く動かされる手信号に対して応答する。

ooo = Answer to ooo and acknowledging “back”
ooo = oooに応答し、バックに対する確認の信号を送る。
ooo = Answer to ooo and acknowledging “stop at next station”
ooo = oooに応答し、次の駅で停車、に対する確認の信号を送る。

oooo = When running, reduce speed
oooo = 走行中であれば、スピードを落とす。

oooo = When standing, recall flagman
oooo = 停止中であれば、信号手を呼び戻す。

oooo = Call for signals
oooo = 信号を出すように要求する。

ooooo = Increase train heat
ooooo = 列車の暖房を強める。

-o = Shut off train heat
-o = 列車の暖房を停める。

– = Running test completed
– = 走行試験が完了した。

– = When running, look back for hand signals
– = 走行中は、手信号を確認するように。

– = When standing, apply or release air brakes
– = 停止時は、エアーブレーキをかけるあるいは緩める。

-ooo = Flagman protect rear of train
-ooo = 信号手は、列車の後尾を守るように。

ooo- = flagman protect front of train
ooo- = 信号手は、列車の先頭を守るように。

—- = Flagman may return from west
—- = 信号手は、西から戻っても良い。

—- = flagman may return from east
—- = 信号手は、東から戻っても良い。

–o = Approaching meeting o waiting points
–o = 待ち合わせもしくは退避地点に近づいている。

o- = Inspect brake pipe for leaks or for brakes sticking
o- = (空気)漏れあるいは、ブレーキがかかった状態になっていないかを確認するために、ブレーキパイプを調べる。

— = Train parted
— = 列車が分割された。

–o- = Approaching any crossing at grade, tunnels and obscure curves; to be commenced sufficiently in advance to afford ample warnings, but not less than one-fourth mile before reaching a crossing if distance permits, and prolonged or repeated until lead unit has passed over the crossing. If distance does not permit, whistle signal must be commenced sufficiently in advance of entering crossing to provide ample warning.
–o- = 踏み切り、トンネル、見通しの悪いカーブに接近している。余裕を持って警告できるように、距離的に可能であれば、踏み切りの手前1/4マイル以上前から鳴らし始め、先頭のユニットが踏み切りを超えるまで、延ばすか、繰り返すこと。距離的に不可能であれば、余裕をもって警告できるように、踏み切りに入る前、可能な限り早く鳴らし始めること。

oooooooooooooo etc = Succession of short sounds = Alarm for person or livestock on the track
oooooooooooooo etc = 連続した短い音 = 線路上の人や動物への警告。

oo- = Engineer of second engine take control of air brakes. when second engineer has taken control, he must repeat the signal.
oo- = 2台目の機関車の機関士が、空気ブレーキの制御をするように。2台目の機関士が制御をするようになったら、この信号を繰り返さなければならない。

レイアウトのクリーニングについて(2)

前回のレイアウトのクリーニングについてという記事を書きましたが、この話題に関して以前在籍していたクラブのメーリングリストであれこれ聞いてみたところ、次のファイルの存在を教えてもらいました。

私も在米中に何回か通販でお世話になった、Tony’s Train Exchangeが取り扱っているCMX Clean Machineというクリーニングカーの紹介紹介とマニュアルです。これはTony’sのイチオシのクリーニングカーのようで、ホームページの右上に大きく紹介されています。

もちろん、お店の宣伝の一環ですから、この製品がいいよという主張をしているのではありますが、単に製品の紹介だけではなく、クリーニングに関する一般的な話、外部の化学者に評価を依頼した記事、ユーザの評価結果まで載せています。特に”Track Cleaning – A Chimist’s Perspective”という外部の化学者による評価記事は全8ページ中3ページが割かれた力作です。この記事、専門用語も多く、読みやすいとは言えないのですが、一読の価値はあると思います。概要を紹介すると、以下のようになるかと思います。正確にまとめたつもりですが、化学は専門ではありませんし、ばっさり略したところもあります。原文の主張や意図を誤っていたら、遠慮なく指摘ください。

1)線路の汚れの原因は、主に、酸化物、有機汚染物、外部からの汚染物質の3つである。
2)これらの汚れをレールから取り除くには、酸化物を物理的に削りとるという動作と、有機汚染物を化学的にやわらかくするという動作の組み合わせが有効である。
3)有機汚染物には、プラスチックが分子レベルで劣化して摩擦などで剥がれ落ちるもの、色素などのプラスチックへの添加物が車輪の表面に浮き出てゆくもの、プラスチック成型時に使う剥離剤、がある。
4)これらの有機汚染物がごちゃ混ぜになったものをやわらかくするには、ラッカーシンナーが良い
5)同時に、車輪もしっかりクリーニングすること。プラスチックの車輪のクリーニングにはメタノールを使うこと

実は私自身はこのラッカーシンナーを使うという結論には納得していません。まず個人的な事情を言えば、私はシンナーの匂いが苦手なのです。さらに、微量のシンナーが線路に塗布され、すぐにふき取られ、蒸発する構造になっているとはいえ、いろいろなプラスチックのものが存在しうるレイアウトでは、何か事故があったときを考えると、積極的に使いたいとは思いません。さらに、私の所属していたクラブのように、プラスチック車輪は禁止というルールにしてしまえば、プラスチックに起因する有機汚染物は大幅に減るはずですので、クリーニング液やクリーニングカーの選択も変わってくると思います。

とはいえ、この記事は、できる限り科学的で正確な議論を行おうという姿勢が見える点で、好感がもてます。このような議論が提供されれば、情報の受け手がどう行動すればよいかの判断をする手助けになり、納得性が高くなるのではないでしょうか。

ちなみに、この記事の最後に、ローラー型のクリーニングカーでGoo Goneのようなものを使った場合、「すばらしい仕事(fantastic job)をする」と書かれています。:)
下記引用しますが、原文も含めてよく読んでご判断ください。

You were being kind in your comments about rolling pad cleaning cars. As you said, they offer no scrubbing action, especially when used with something such as “Goo-Gone”, where these rollers do a fantastic job of coating the track without removing anything.

レイアウトのクリーニングについて

ワークスKさんのクリーニングカーとグーゴーンという記事を拝見しました。

すでに雑誌社の姿勢とかあり方について何件かコメントが寄せられています。あいにく私はこのような観点ではコメントをできるような見識を持ち合わせていませんので、その方面での議論は他の方にお譲りします。私は、今回の記事の実験条件というのがどうも腑に落ちなかったので、その観点で書かせていただきます。

実験というのは、ある仮説を実証するために行うものだとおもうのですが、今回の記事のテストが何を仮説としたのかがもう一歩読み取れませんでした。「Centerline社のクリーニングカーの性能が良い」というのが仮説であることはもちろんですが、その仮説に伴う条件が妥当でなければ、実証ができても、現実的にはあまり意味をなさない仮説だと思うのです。

私が思うに、Centerline社のクリーニングカーを使おうとするのは、それなりに大きなレイアウトを持っていて、頻繁に運転をしていて、その運転の品質を保ちたいと考える人たちではないかと思います。ですので、「1.4×0.9mのエンドレス」が「4、5年放置されていた」ものを使って性能を実証しても、そんなに価値のある情報になるのかなぁ、と感じてしまった訳です。

あるいは、Centerline社のクリーニングカーの絶対的な性能を実証するために、あえて劣悪な条件で実験を行ったのかもしれません。そうだとしたら、もっとデータを取ってほしかったと思います。クリーニングカーを10週走らせるごとにスタート電圧を測ってグラフにしておけば、どれくらい走らせればどれくらいのクリーニング効果が得られるか、というようなことがわかるわけで、多くの人に価値のある情報になったと思います。

ほかにも、最近増えてきたコアレスモーター搭載の機関車ではどうなるかとか、DCCの機関車ではどうなるか、とか、いろいろな切り口があると思います。そういう詳しいデータを取れば、一級品の記事になったのではと思います。

インターネットの時代で紙メディアのあり方が大きく揺さぶられているわけですが、私自身は紙のメディアには紙のメディアなりのよさがあると思います。そのためには電子メディアをうまく活用してゆく工夫が必要だと思います。たとえば、今回のクリーニングの効果として、スタート電圧が8Vから5Vになったとありますが、これだけ読んでもいまひとつその改善の意味合いが実感が湧きません。クリーニング前後でのスタートのスムーズさの変化をビデオにとってYoutubeに載せておけば、誰も反論できない、説得力のある記事になったと思います。

最後にもうひとつ補足すると、アメリカのクラブに所属して思ったのは、レールのクリーニングとは、様々な作業の地道な積み重ねだということです。確かにクリーニングカーは便利ですが、万能だとは思いません。手作業で磨くこともありますし、レールに触れる車両の状態を適正に管理することもレールのクリーニングの作業の一環と考えるべきです。そして肝心なのは、「これらの一連の作業を継続的に行う」ということだと思います。このあたりは、ずいぶん前になりますが、車検に関する補足(その1)車検に関する補足(その2)とに書かせていただきましたので、興味のある方はお読みになっていただければ、と思います。