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JMRI訴訟(Jacobsen vs Katzer Case)の和解が成立 (3)

前々回の記事前回の記事、は、JMRIのホームページの中の、JMRI訴訟の経緯のページに依りました。この訴訟の詳細の経緯をお知りになりたい方は、ぜひお読みください。ただし、印刷すると30ページ近くなり、法律用語もたくさん出てきますので、覚悟を決めて取り組む必要がありますが。

私もさらっと読んだ程度ですが、この訴訟はかなりの泥沼の様相を呈していたことが伺えます。その過程で、「OSSの権利を護るためには、この訴訟に負けるわけにはいかない」、という関係者の信念が伝わってくるようであり、考えられる手を一つ一つ打ちつつ、その中で支援の輪が広がってゆく様も感じ取ることができました。「正当な権利は、自分で勝ち取るのだ」という姿勢が見えるのは、やはりアメリカという国だからでしょうか。

さて、以下は、素人の議論ということで読み流して頂きたいのですが、OSSとは、ソフトウェアをネット上に公開し、ネット上のユーザーの各種のフィードバック(良い点、悪い点の指摘、プログラムの改良の提案、など)を取り込んでゆくことで成り立っているものであり、OSSの開発に参加している人々は、自分の作ったソフトウェアが他人に有用と判断しもらって、利用者が広がってゆくことに価値観を見出していると理解しています。金銭的な見返りを目的としているものではありませんので、このようなOSSという活動が成立する最低条件として、「誰がどういう貢献をしたかを明確にすること」と、「貢献をした人に対して敬意を払うこと(OSSの場合は、ライセンス/著作権を守るということ)」とが重要と考えます。というより、「貢献した人に経緯を払う」ということは、普遍的に守られるべきことであると考えています。

今回の訴訟が紆余曲折を経たのは、OSSに対する著作権に対する法律上の解釈が明確に与えられていなかったからかと思いますが、上記の考え方に沿った形で解決がはかられたということは、当然のことと考えています。なによりも、JMRIという関係者が努力を重ねてきて発展してきたソフトウェアが訴訟という状態にあるというのは、趣味の世界には似つかわしくないということで、ほっとしているのは、私だけではないと思います。

JMRI訴訟(Jacobsen vs Katzer Case)の和解が成立 (2)

さて、JMRI訴訟に関する前回の記事の続きです。引き続き、専門の知識をお持ちの方がいらっしゃったら、誤り等のご指摘、補足などいただければ、大変助かります。

[2010年9月15日追記: 下記の記述に関して、稲葉清高様にコメントを頂きましたので、併せてお読みください。]

Jacobsen氏が、訴訟に著作権侵害を加えた際の、Katzer氏の反論がこの裁判の転機となったと書きましたが、この反論(原文はこちら)を私の拙い理解の範囲で噛み砕くと、「そもそも、著作権侵害で訴えることができるのは、契約不履行があった場合であるが、JMRIのように、誰でもダウンロードできる公開の形態をとった場合、契約そのものが成立しない。つまり、公開者は、利用者を訴える権利を放棄したと見るべきであり、原告のJaconbsen氏には、著作権侵害を訴える権利が無い」ということです。

このKatzer氏側の主張が認めらるとなると、JMRIだけでなく、各種のOSSを、ライセンスに違反して使っても、著作権侵害で訴えることはできない、ということになります。つまり、この主張は、OSSの著作権、さらに言えばOSSそのものの存在意義を限りなく否定することになります。これまでにOSSに関する類似の係争が存在せず、この裁判の結果が、今後の判例となるため、単なる模型界の特許係争から、OSS関係者も含めて、多くの人が見守る係争となりました。

これ以上の詳細な経緯を述べることは、このBlogの範囲を超えているので、簡単にポイントだけ紹介すると、当初カリフォルニア州の地裁ではJacobsen氏の主張は認められず、連邦巡回区控訴裁判所に控訴、地裁に差し戻し、という経緯を経て、2009年12月に大筋においてJacobsen氏側の主張が認められたSummary Judgement (原文はこちら)が出され、その中で、OSSといえども著作権は守られるべきものであること、Katzer氏側に著作権侵害があったこと、が認められました。

今回の和解は、上記のSummary Judgementにおいて、OSSに対する著作権の考え方の判断の大勢が決まったことを受けてまとまったもので、1)今後、Katzer氏側は、JMRIのダウンロード、改変、再配布などを行わないこと、2)今後、Katzer氏側は、decoderpro.comなどのJMRI関係のドメイン名の登録を行わないこと、3)Katzer氏側が、Jacobsen氏側に10万ドルを支払うこと、などが含まれています。

詳しくは、こことか、こことかのニュース記事をご覧ください。

JMRI訴訟(Jacobsen vs Katzer Case)の和解が成立 (1)

もともと、このBlogは、「アメリカ型鉄道模型」に関する私の興味の範囲で、気の向くままに話題を取り上げているものですが、まさかこんなことまで取り上げることになるとは思いませんでした。今回の話題は、「裁判」です。私はこの方面の知識は皆無ですので、どこまで深掘りできるかわかりませんが、まずは筆を進めてみましょう。この方面に詳しい方がいらっしゃったら、誤り等のご指摘、補足などいただければ、大変助かります。

JMRI(Java Model Railroad Interface)というソフトウェアがあります。これは、PCを使ってDCCを楽しむためのソフトウェアで、DCCデコーダーの設定やDCC運転をするためのDecodePro、レイアウトのコントロールパネルを作成、運用するためのPanelPro、等のプログラムを含んでいます。このソフトウェアの特徴の一つは、そのプログラムが、中身(ソース)も含めて公開されており、「利用、改造、再配布等が、ライセンスに決められた範囲で自由に行える」、「オープンソース」と呼ばれる形態を取っていることです。みなさんの中には、Firefox(ブラウザ)、Thunderbird(メール送受信ソフト)、といったオープンソースソフトウェア(以下、OSS)をお使いの方がいらっしゃるかと思いますが、実はこれ以外にもOSSはいたるところに利用されており、この世はOSSなしでは成り立たないと言っても過言ではありません。

このJMRIの主たる作者の一人であるBob Jacobsen氏と、KAMIND社のオーナーであるMatt Katzer氏との間で、訴訟が起きているということはご存じでしょうか。この両者は、2004年頃から、「Katzer氏からJacobsen氏に対する特許料支払い要求」や、「Jaconbsen氏からのKatzer氏が取得したドメイン名(decoderpro.com)の返還要求」などでくすぶっていましたが、2006年3月にJacobsen氏が「Katzer氏の特許そのものが無効であることの確認、従って特許料支払い要求も無効であることの確認、ドメイン名の返還、等」、を求めて訴訟を起こしました。

そしてこの年9月、Katzer氏のKAMIND社が発売したPC用DCCソフトウェアが「JMRIで開発したデコーダーの定義ファイルのデータを、著作権表示等を削除した上で、流用したということが判明」し、Jacobsen氏側は、「この流用は盗用であり、著作権侵害にあたる」として訴訟に救済措置を追加したのですが、これに対するKatzer氏側の反論によって、この裁判は大きな転機を迎えることとなりました。