JMRI訴訟(Jacobsen vs Katzer Case)の和解が成立 (2)

さて、JMRI訴訟に関する前回の記事の続きです。引き続き、専門の知識をお持ちの方がいらっしゃったら、誤り等のご指摘、補足などいただければ、大変助かります。

[2010年9月15日追記: 下記の記述に関して、稲葉清高様にコメントを頂きましたので、併せてお読みください。]

Jacobsen氏が、訴訟に著作権侵害を加えた際の、Katzer氏の反論がこの裁判の転機となったと書きましたが、この反論(原文はこちら)を私の拙い理解の範囲で噛み砕くと、「そもそも、著作権侵害で訴えることができるのは、契約不履行があった場合であるが、JMRIのように、誰でもダウンロードできる公開の形態をとった場合、契約そのものが成立しない。つまり、公開者は、利用者を訴える権利を放棄したと見るべきであり、原告のJaconbsen氏には、著作権侵害を訴える権利が無い」ということです。

このKatzer氏側の主張が認めらるとなると、JMRIだけでなく、各種のOSSを、ライセンスに違反して使っても、著作権侵害で訴えることはできない、ということになります。つまり、この主張は、OSSの著作権、さらに言えばOSSそのものの存在意義を限りなく否定することになります。これまでにOSSに関する類似の係争が存在せず、この裁判の結果が、今後の判例となるため、単なる模型界の特許係争から、OSS関係者も含めて、多くの人が見守る係争となりました。

これ以上の詳細な経緯を述べることは、このBlogの範囲を超えているので、簡単にポイントだけ紹介すると、当初カリフォルニア州の地裁ではJacobsen氏の主張は認められず、連邦巡回区控訴裁判所に控訴、地裁に差し戻し、という経緯を経て、2009年12月に大筋においてJacobsen氏側の主張が認められたSummary Judgement (原文はこちら)が出され、その中で、OSSといえども著作権は守られるべきものであること、Katzer氏側に著作権侵害があったこと、が認められました。

今回の和解は、上記のSummary Judgementにおいて、OSSに対する著作権の考え方の判断の大勢が決まったことを受けてまとまったもので、1)今後、Katzer氏側は、JMRIのダウンロード、改変、再配布などを行わないこと、2)今後、Katzer氏側は、decoderpro.comなどのJMRI関係のドメイン名の登録を行わないこと、3)Katzer氏側が、Jacobsen氏側に10万ドルを支払うこと、などが含まれています。

詳しくは、こことか、こことかのニュース記事をご覧ください。

JMRI訴訟(Jacobsen vs Katzer Case)の和解が成立 (2)」への4件のフィードバック

  1. 稲葉 清高

    JMRI の訴訟が OSS に与える影響
    どうも、稲葉でございます。
    仕事の検索をしてて、この blog に来ちゃいました。(仕事、の一部、が OSS ライセンス管理なんです)

    Jacobsen v. Katzer 事件でひとつ重要なところは、「たとえ、道端に落ちてるように誰でも使えるような配り方でも、あくまで著作権法の保護のもとにある」ということなのです。

    ここから先は、日本の法律用語に近い物を使いますが、基本的に人の持っている権利は債権と物権に分けられます。(この債権という言葉は、経済活動で普通に使う言葉と相当意味が違うのでややこしいです)
    で、物権 (こっちの方が簡単なので) はまさしく、「物に関する権利」で例えば、所有する権利だとか、占有する権利 (借家は所有してないけど、占有してるわけです) などが淡々と記載されています。
    じゃあ、これに対して債権は何かと言えば、非常に簡単に言えば「約束」の事です。で、民法の債権の部に書いてある事と言えば「約束は守りましょう」ってことだけなんですね。こう聞くと、著作権なんてどう考えても物権には見えないので、債権だろうと思うのですが、大間違いでこれは物権の一種 (準物権という用語があります) なのです。で、著作にかかわる権利が物権じゃないと何が問題かと言うと、債権の場合、双方の合意がなければもともと約束にならないので、「約束破り」という事態が発生しないのです。
    物権的性格を持っていると認められたので、Katzer が合意しようがしまいがライセンスに違反すれば、Jacobsen の持つ所有権を侵害してますね、に繋がります。

    これの逆の例を一つ言えば、特許で保護されてないアイデアを「自分や第三者がこれで製品を作らないでね」と言った上で伝えて、そこからの流れで第三者が製品化したとしたら、約束違反、つまり債権の部の担当事項ですが、特許で保護されると、たとえ上のような約束をしていなくても、第三者が製品化したら特許権侵害で訴える事ができる (つまり物権の部の担当事項) わけです。

    なので、本文の説明で若干不都合なところをあげると、「契約そのものが成立しない」のところになります。もし契約が成立していないのなら、再配布の権利は著作者にしかないから、自動的に Katzer は著作権法違反になります。(著作物に関する契約は、一般的に「本来あなたが持ってないこの権利をあげます」という許諾契約なのですなのです)
    あたりのもっと詳しい話を 12 月に社外のセミナーでやる資料を作っていたのでした。セミナーには JMRI の実演でも入れてやろうかなあ 😉

    返信
  2. northerns484

    詳細なコメントを頂き、ありがとうございます。
    稲葉 清高様:

    専門家の立場からの詳細なコメントを頂き、ありがとうございます。大変参考になりました。

    浅学故、本文の記述が正確さを欠くのはご容赦ください。頂いたコメントをもとに修正したいところではありますが、拙い文章を更にわかり難くするだけのような気がするので、断念して、稲葉様のコメントを読んでいただくという形にしました。併せてご容赦ください。

    > セミナーには JMRI の実演でも入れてやろうかなあ 😉

    これを読んで、2006年のJava One Conferenceでは、JMRIの実演を行って、Duke’s Choice Awardを受賞した、というのを思い出しました。
    http://java.sun.com/javaone/sf/2006/dukes_choice_awards.jsp
    http://blogs.sun.com/katysblog/entry/jmri_javaone_and_duke_s

    どういう方がセミナーを聴講されるかわかりませんが、結構受けたりするかもしれませんね。

    返信
  3. 稲葉 清高

    > これを読んで、2006年のJava One Conferenceでは、JMRIの実演を行って、

    はい、これはニュースで見て、「ああ、こんな面白いのやってるんなら、たまには Java One に行けば良かった」と思いました。

    > どういう方がセミナーを聴講されるかわかりませんが
    セミナーは、組込み技術者向けの
    http://www.jasa.or.jp/et/ET2010/index.html
    って奴なんで、デモとかでも鉄道模型を持ってきて気を引いたりする会社は多かったりするんですよ。ただ、私の担当は講演だから、JMRI のデモだけで時間を埋めると座長あたりからしばかれるだろうなあ 😉

    ま、来年のベルギーでの学会 (ねたは同じジャンル) では展示場所ももらえるから、そっちでやろうかな。
    # その前に position paper 仕上げねば ;-

    返信
  4. northerns484

    それは受けそうですね
    > デモとかでも鉄道模型を持ってきて気を引いたりする会社は多かったりするんですよ

    そうだとすると結構受けそうですね。講演だと、大掛かりなことができないでしょうから、デモビデオを作って、プレゼンテーションの中に忍ばせておいてはいかがでしょうか。

    返信

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

*