Penn Central 1974

米国滞在時、車を交差点で止め、ふと周りを見ると、半分くらいが日本車やドイツ車で占められていることがよくありました。移民も多く、伝統よりは実質を重んじるカリフォルニアという土地柄もあるのだと思いますが、ビッグ3の実力はここまで落ちたのか、とも思ったものでした。とはいえ、サブプライム破綻を契機に、ビッグ3の経営危機がここまで一気に噴出するというのは予想外でした。現在、ビッグ3は、政府への資金援助要請のために各種の活動を進めており、会社の専用機で陳情に行って批判の嵐にあったことは皆さんもご存知かと思います。

さて、1974年当時、経営危機に瀕した会社が、いかに自分たちの会社がひどい状態にあり、政府による支援が必要か、を訴えるために、フィルムを作製しました。

その会社は、ペンシルバニア鉄道ニューヨーク・セントラル鉄道が1968年に合併してできた、 ペン・セントラル鉄道であり、作成したビデオというのが、今回紹介する「Penn Central 1974」です。いきなり貨車が脱線するというセンセーショナルなシーンからスタートしますが、約30分にわたる大作で、当時のPenn Centralの状態を示す資料として価値が高いと思われます。

聞き取り能力が落ちているので、全部は聞き取れていませんが、ナレーション部を中心に、ポイントだけ記したいと思います。注意が行き届いていないところもあると思いますので、いつものように、間違いは遠慮なく指摘ください。

* Penn Centralは、6年前(1968年)に合併で誕生し、4年前(1970)から、破産状態にある。
* 最近の1ヶ月で、Penn Centralは、649の脱線事故があり、252の機関車、1637両の貨車に損傷があり、40万ドルの積荷の損害につながった。

* 貨車の不足が深刻である。15万両の貨車を保有しているが、13%は休車状態にあり、全部をつなげると長さが200マイルになる。
* 荷主の要求にこたえることが出来ないため、一日15万ドル以上の損失、1年で7000万ドルの損失になっている。貨車の不足がこの状況を悪化させている。合併から2万両の貨車が減った。車齢40年の貨車を一日25両解体して、使える部品を使いまわしている。

* 毎日数量の貨車を修理している。きれいな塗装の外見とは裏腹に、つぎはぎだらけの修理をしている。本格的な修理のプログラムを実行しなければ、破滅的な事態に陥る。

* 貨車の定期的なおよび軽微な修理は、36ある”Spot Repair Shop”で行っているが、そのうちの29は労働条件が厳しいなど、必要な要件を満たしていない。いくつかは効率の良いショップに改修したが、お金が尽きた。

* 機関車にも問題がある。破産状態になってから新しい機関車を購入したが、古い機関車は排煙がひどいなどの問題があり、置き換える必要がある。しかし、お金がない。

* 機関車の運用にはメンテナンスショップが必要。シカゴのショップは築60年の蒸気時代のものである。20あるショップのうち15が近代化もしくは立て替えが必要だが、お金がない。

* 近代化を行ったショップでは、経費削減、従業員のモラルや生産性の向上が図れることが実証されており、(そのほかのショップの改装を進められないことは)フラストレーションにつながっている。

* Penn Centralには、39のピギーバックの荷物を捌くターミナルがあるが、すべてが、増加する荷物の量を捌くには規模が小さく、悪いもしくは貧弱な状態である。これらの改修が必要だが、お金がないので延期している。

* 貨車を入れ替えるための操車場は、鉄道会社にとって最も重要なもので、14のハンプヤードと呼ばれる大規模な操車場があり、そのうちの8つが悪い状態にある。

* ニュー・ヘヴンのハンプヤードでは、24時間に1300両の貨車をさばけるはずだが、そんな日はめったにない。ここ2ヶ月で57回の脱線、つまりは1日1回の脱線が起きた。クリーブランドではもっとひどく、一晩にに5つか6つの脱線が起きている。

* お金を使うべきではないということはわかっている。すべての操車場を、ほとんど自動化が可能な最新型の操車場にできれば、お金の支出が抑えられる。しかしながら、それ以上のお金が旧式の操車場で消えてゆく。

* フラットヤードと呼ばれる小規模な操車場が49あるが、このうちの30が不適切もしくは貧弱な状態となっている。Newarkの操車場では、本線でさえ自動信号/自動切換えがない。

* 近代化したフラットヤードもあり、それらの効率が良いことは実証されており、お金があれば、改修を進めたい。

* 保守を伸ばし続けてきたため、線路の状態がわるく、列車を走らせるときは脱線や人命の危険を承知の上で走らせている。時速8マイル?10マイルで走らせている支線や亜幹線もある。

* その一方、保守をしっかり行っている亜幹線では時速50マイルも可能。

* 本線では、モホークバレールートは路盤が固く、潜在的な鉄道のサービスの可能性を示すものであるが、Penn Centralの全体の本線の状態を示すものではない。

* ニューヨーク・ワシントン間のメトロライナーは、国内で最高のサービスを提供している。高速化には30万ドルが必要。しかし、Northeast Corridorの問題は、貨物の運行に支障の場所があることである。

* 本線の5000マイルが「病にかかって」いるが、これは保線を先伸ばしにしたことが原因。

* 線路の状態が悪いことによる速度低下は、従業員の給与など、時間にかかわるすべてのものに影響を与える。たとえば、列車のクルーは12時間以上連続勤務できないため、毎月40万ドルのコスト増につながっている。

* 最も困っているのは、線路の状態である。2月25日から3月3日の間に153の脱線があり、それを取り除くだけにも40万ドルがかかっているが、2/3は線路の状態に起因するものである。

* 現在のPenn Centralの状態は、顧客の要求を満たすには、はるかに遠いのは言うまでもない。

* 今のPenn Centralは、雪の玉が坂を転がり落ちている状態である。今すぐ、本質的な手助けがなければ、最終的に大惨事につながる可能性もある。

それでは、皆さん、今年もまもなく終わりますが、良いお年をお迎えください。

[2012/4/7追記: Youtubeにアップロードされていますので、埋め込んでおきます。]

Penn Central 1974」への2件のフィードバック

  1. dda40x

    すごい映画ですね
     久々に面白いフィルムを拝見しました。
     つぶれかかったPRRとNYCが併合されて作られたPCですから、生まれながらにして問題点をたくさん抱えていました、
     しかし、ここまでひどいとは思いませんでした。

     このころPCの本社はスイスの銀行に株を売りつける工作をしていました。アメリカ最大の鉄道会社と言う触れ込みでたくさんの株をスイスの15ほどの銀行に株を買ってもらうことに成功しました。ヨーロッパではアメリカの鉄道不振の話は聞こえていなかったのでした。

     その直後、PCは破綻し、スイスの銀行は全て倒産してしまいました。ひどい話です。日本の銀行が被害にあったかどうかは知りません。

     この映画は投資家に金を出させるための映画ですから、多少の誇張があるかもしれません。しかし面白い映画です。

     PRRやNYCの車輌が現在残っていない理由もよく分かります。
     UP、SP、などは運の良い会社であったことがよく分かります。しかしその後、UPなどはトヨタの下請企業になり、看板方式で120両のコンテナ列車を15分以内の誤差で走らせられることになりました。これも幸せかどうかは分かりませんね。

     今年もよろしくお願いします。

    返信
  2. northerns484

    どこかで聞いたような話ですね
    dda40xさん:
    こちらこそ今年もよろしくお願いします。

    >このころPCの本社はスイスの銀行に株を売りつける工作をしていました。
      :
    > その直後、PCは破綻し、スイスの銀行は全て倒産してしまいました。ひどい話です。

    なんだか、現在進行形の話と構図がそっくりですね。

    > PRRやNYCの車輌が現在残っていない理由もよく分かります。
    >UP、SP、などは運の良い会社であったことがよく分かります。

    PRR/NYC は経営環境が特に厳しかったのかもしれませんが、あれだけ車両や線路の状態が悪化したというのは、PRR/NYC時代のどこかで鉄道会社としての基本的なマネジメントが忘れ去れた時期があって、そのつけが泥沼の悪循環につながっていったのではないかと感じました。

    返信

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