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ユニバーサルジョイントの使い方(21) – 2つのベクトルのなす角度と外積

ユニバーサルジョイントの3つの軸が同一平面上にない場合の解析の基本的考え方を前回明らかにしました。3つの軸が同一平面上にある場合は、作図によって角度等の関係の式を簡単かつ直感的に求めることができますが、そうでない場合は、3次元空間で軸の位置を考える必要があり、作図して求めるには困難が予想されます。

作図に頼らずに機械的に計算ができるよう、以下に説明するベクトルに関する2つの概念を用いることとします。いずれも数学の基礎的な概念ですので、いろいろな説明がネット上に存在します。必要に応じて検索していただき、わかりやすい説明があれば、そちらもご確認ください。

まず、ベクトル\(\vec{a}=(a_x,a_y,a_z)\)と、ベクトル\(\vec{b}=(b_x,b_y,b_z)\)とのなす角度\(\theta\)に関して次の関係が成り立つことを利用します。ただし、\(0\le\theta\le\pi\)とします。

\(cos(\theta) = \frac{{a_x}\cdot{b_x}+{a_y}\cdot{b_y}+{a_z}\cdot{b_z}}{\sqrt{{a_x}^2+{a_y}^2+{a_z}^2}\cdot\sqrt{{b_x}^2+{b_y}^2+{b_z}^2}}\)

ベクトル\(\vec{a}=(a_x,a_y,a_z)\)と、ベクトル\(\vec{b}=(b_x,b_y,b_z)\)との内積が

\(\vec{a}\cdot\vec{b} = a_x\cdot b_x + a_y\cdot b_y + a_z\cdot b_z\)

であること、ベクトル\(\vec{a}=(a_x,a_y,a_z)\)の長さ\(|\vec{a}|\)は内積演算を用いると

\(|\vec{a}| = \sqrt{\vec{a}\cdot\vec{a}}\)

であることを利用すれば、上記の式は

\(cos(\theta) = \frac{\vec{a}\cdot\vec{b}}{|{\vec{a}}|\cdot|{\vec{b}}|}\)

と表すこともできます。

次に、ベクトルの外積という概念を利用します。\(\vec{A}=(a_x,a_y,a_z)\)と、ベクトル\(\vec{B}=(b_x,b_y,b_z)\)とがあったときに、次の計算で得られるベクトル\(\vec{A}\times\vec{B}\)を\(\vec{A}\)と\(\vec{B}\)との外積ベクトルと呼びます。この外積ベクトルは\(\vec{A}\)と\(\vec{B}\)との両方に垂直であるという重要な性質を持ちます。

\(\vec{A}\times\vec{B} = (a_y\cdot b_z – a_z\cdot b_y, a_z\cdot b_x – a_x\cdot b_z, a_x\cdot b_y – a_y\cdot b_x)\)

さて、ベクトル\(\vec{A}\)とベクトル\(\vec{B}\)とに垂直なベクトルの向きは3次元空間では2つ考えることができます。\(0<\theta<\pi\)となるような\(\theta\)角度だけ(右)ネジを締める方向にベクトル\(\vec{A}\)を回転させて、ベクトル\(B\)に重ねることができる場合を考えます。このネジが進む方向のベクトルが、外積ベクトルとなります。

あるいは、ベクトル\(\vec{A}\)とベクトル\(\vec{B}\)とを\(xy\)平面に置き、ベクトル\(\vec{A}\)を\(x\)軸の正の方向に向け、このベクトルを反時計回りに\(\theta\)回転させたときに、ベクトル\(\vec{B}\)に重ねることができる場合、外積ベクトル\(\vec{A}\times\vec{B}\)は、\(z\)軸の正の方向を向きます。

参考までに、ベクトル\(\vec{A}\)とベクトル\(\vec{B}\)とに垂直なもう一方のベクトルは、\(\vec{B}\times\vec{A}\)を計算すれば求めることができます。

なお、ベクトル\(\vec{A}\)とベクトル\(\vec{B}\)とが同じ方向を向き、\(\theta=0\)となる場合、およびベクトル\(\vec{A}\)とベクトル\(\vec{B}\)とが反対の方向を向き、\(\theta=\pi\)となる場合は、二つのベクトルの外積\(\vec{A}\times\vec{B}\)は\(0\)ベクトル\((0, 0, 0)\)となります。

また、外積ベクトルの長さは2つのベクトルがなす平行四辺形の面積に等いという重要な性質がありますが、今回はこの性質は使いませんので、以下では触れませんが、この性質を式で表すと、

\(|\vec{A}\cdot\vec{B}| = |\vec{A}|\cdot|\vec{B}|\cdot sin(\theta)\)

ここまで述べたことを簡単に絵にまとめました。

ユニバーサルジョイントの使い方(20) – 3つの軸が同一平面に存在しない場合を考える

気がつくとこのシリーズ20回目の記事です。よくもまぁここまで続けられるものだと我ながらあきれてしまいます。Shayの解析のあたりからは個人的興味で続けているところがありますので、万人にアピールする内容ではないと思いますが、よろしければ引き続きおつきあいください。今回からの考察では、別の概念を導入しますので少々難度が上がるかと思いますが、三角関数とベクトルの考え方がわかれば、理解できる内容になっているとは思います。

下の図は、2つのユニバーサルジョイントをつなげたときの解析で使ったものです。

簡単におさらいしておくと、駆動面上の基準点がどれだけ回転したかの角度\(\theta\)と駆動面に対して\(\alpha\)傾いた伝達面上の基準点がどれだけ回転したかの角度\(\varphi\)に関して、

\(tan(\varphi) = -\frac{1}{tan(\theta)}\cdot\frac{1}{cos(\alpha)}\)

が成立し、中継面上の基準点が回転した角度\(\varphi’\)と中継面に対して\(\beta\)傾いた最終伝達面上の基準点が回転した角度\(\xi\)に関して、

\(tan(\xi) = -\frac{1}{tan(\varphi’)}\cdot\frac{1}{cos(\beta)}\)

が成立します。

ここで、

\(\varphi’=\varphi + \delta\)

であり、\(\delta\)は伝達面に対する中継面の回転の位相のずれを表します。

ユニバーサルジョイントの角速度の変動を解析するには、\(\alpha\)、\(\beta\)を求め、\(\delta\)を定め、上記の関係から導出できる式にあてはめて計算してきました。

さて、ここまでの議論では一貫して一つの仮定を置いています。2つのユニバーサルジョイントを組み合わせたときに、ユニバーサルジョイントを構成する3つの軸がすべて同一平面上にある、というものです。

しかしながら、Shayの中には、エンジンのクランクシャフトの高さとベベルギアを駆動する台車の軸とが異なっているように見えるものがあります。写真の写し方によるのかとも思いましたが、このShayの図面を子細に確認すると、クランクシャフトの軸の高さはベベルギアを駆動する軸より1.5インチ高い位置にあるように読み取れます。

また、模型の中でも、モーターの軸の高さと、車輪を駆動する軸の高さがあっていないものを見たことがあります。

このような動力機構が曲線をを通過する場合、ユニバーサルジョイントを構成する3つの軸が同一平面上には存在するという仮定を満たしませんので、これまでの考え方では解析できません。以降、ユニバーサルジョイントを構成する3つの軸が同一平面上には存在しない場合の解析を考察します。

以下の説明をわかりやすくするために、先ほどの図と等価の図を図を座標系を明示して描いてみます。

この図では、ユニバーサルジョイントを構成する3つの軸、\(AB\)、\(BC\)、\(CD\)、が\(y\)軸と\(z\)軸とからなる平面に配置されるように座標系を設定しています。同一平面上にあるということは、3つの軸を規定する4つの点\(A\)、\(B\)、\(C\)、\(D\)の\(x\)座標の値が\(0\)になるということです。ユニバーサルジョイントを構成する3つの軸が同一平面上にある場合、4つの点の\(x\)座標の値が\(0\)になるような座標系を設定することが可能である、という表現がより正確かもしれません。

解析に用いる\(\theta\)、\(\varphi\)、\(\varphi’\)、\(\xi\)を、どこを基準にして測るか、を考えてみます。\(\theta\)と\(\varphi\)を測る基準となるのは、駆動面と伝達面との2つの平面が交差する直線で、上図の赤の一点鎖線となります。同様に、\(\varphi’\)と\(\xi\)とを測る基準となるのは、中継面と最終伝達面との2つの平面が交差する直線で、上図の青の一点鎖線となります。3つの軸が同一平面上にある場合、これら2つの基準となる直線は平行となります。したがって、これらの4つの角度は、上記の図の例では\(x\)軸を基準に角度を測ればよい、ということになります。

3つの軸が同一平面にない場合の一例を示します。ここでは、先ほどの絵で\(A\)、\(B\)、\(C\)の位置は変わらず、\(CD\)が\(z\)軸周りに\(\eta\)回転したという様子を示しています。

図を見ればわかる通り、駆動面と伝達面との2つの平面が交差する直線と、中継面と最終伝達面との2つの平面が交差する直線とは平行とはなりません。駆動面と伝達面との2つの平面が交差する赤い一点鎖線で示した直線に対する\(\theta\)と\(\varphi\)を測り、中継面と最終伝達面との2つの平面が交差する青い一点鎖線で示した直線に対する\(\varphi’’\)と\(\xi\)とを測り、これらの角度の間に成り立つ関係を求めなければなりません。

ここで、駆動面と伝達面との関係は前の場合と同じで、

\(tan(\varphi) = -\frac{1}{tan(\theta)}\cdot\frac{1}{cos(\alpha)}\)

が成立します。

中継面と最終伝達面との関係は、

\(tan(\xi) = -\frac{1}{tan(\varphi’’)}\cdot\frac{1}{cos(\beta)}\)

が成立します。

\(CD\)が\(z\)軸を中心として\(\eta\)だけ回転したことを考慮する必要があり、

\(\varphi” = \varphi ’-\eta = \varphi + \delta – \eta\)

となります。\(\varphi’\)が\(\varphi\)に対してどれだけ位相がずれているかを\(\delta\)が表すのは今まで通りです。従って、これまで導出してきた角度や角速度の式の\(\delta\)を\(\delta-\eta\)で読み替えれば、そのまま利用することができます。

結論として、3つの軸が同一平面に存在しない場合にユニバーサルジョイントの角速度の変動を求めるには、\(\alpha\)、\(\beta\)、\(\eta\)を求めればよく、次回以降その具体的な求め方を考察してゆきます。

ユニバーサルジョイントの使い方(19) – 阿里山のShayのαとβとの具体的な数値をあてはめる

前回の記事の最後に、阿里山のShayがどの程度の角速度の変動があるのかを確認したいと述べていましたが、⼤変ありがたいことに、内⽥利次⽒、近藤⼀郎⽒より計算に必要な図面をご提供いただくことができました。御二⽅にはここに深く御礼申し上げます。ありがとうございました。

ということで、さっそく解析結果を掲載します。なお、最小半径は40mとしています。


まずは18tのShayの駆動系の寸法です。

最小半径での駆動軸の位置関係を示した図となります。

角速度がどのように変動するかのグラフです。これまでのように、駆動軸が円弧の内側に来る場合、外側に来る場合、の順で示します。


続いては28t Shayの駆動系の寸法です。

最小半径での駆動軸の位置関係を示します。

角速度の変動は以下のようになります。


これらのグラフから読み取れることを簡単にまとめてみたいと思います。

まず、位相が正しい場合、18t、28tとも、角速度の変動は±1%程度に抑えられますので、実用上は問題なさそうと言えそうです。また、前方の台車と後方の台車とで駆動系の寸法が大きくは変わらないことから、前後の角速度の変動の差があまり見られないのも特徴的です。

dda40xさんのBlogでは、阿里山のShayのユニバーサルジョイントは位相が正しくなさそうだとのことでしたので、角速度の変動が±2%程度発生していることになります。もっと条件の悪いShayもありましたので、それよりはスムーズに走るのかもしれませんが、それでも正しい位相にすれば、よりスムーズになる訳で、機械に対する負担も減ると思います。正しくない位相にするメリットは何もないと思います。

ユニバーサルジョイントの使い方(18) – Shayのαとβとの具体的な数値をあてはめる

さて、前回の議論で、Shayの場合に\(\alpha\)と\(\beta\)との求め方を明らかにしましたので、MPギアの場合と同様に、駆動面に対する最終伝達面の角速度の変化を見てみたいと思います。

模型の寸法で議論ができればよいのでしょうが、MPギアのように標準的に使われているような部品がある訳ではないので、今回は実物の寸法を使うこととしました。Shayに関しては手持ちの資料があいにくと少なく、railtruckさんにご相談しデータを提供いただきました。この場を借りて深く御礼申し上げます。

まず、Serial Number 696のShayです。当初Gilpin Tramwayに導入され、その最小半径は50foot(約15m)であったとの記述があります。この条件で\(\alpha\)、\(\beta\)を求め、最終駆動面の角速度の変動をグラフ化してみます。

下図は、railtruckさんにいただいた図面から主要寸法を抜き出したものです。なお、寸法はすべてインチです(以後同様)。前回書いた通り、前の台車の駆動系の寸法と後ろの台車の駆動系の寸法とが異なりますので、それぞれについて\(\alpha\)、\(\beta\)を求める必要があります。

最小半径上で駆動軸がどう配置されるかを示したのが次の図です。CADで作図すると角度が正確にでるのはありがたいですね。導出した式で計算した値と一致することを確認しています。

早速グラフにしてみます。まずは駆動軸が円弧の内側にある場合の角速度の変動。

続いて、駆動軸が円弧の外側にある場合の角速度の変動。

この2つのグラフから言えることをいくつか挙げてみたいと思います。

まず駆動軸が円弧の外側にある場合の方が角速度の変動率が小さいということで、これは我々の直感に沿っているかと思います。

ユニバーサルジョイントの位相が揃っている場合でも、角速度の変動が±5%程度ありますが、極めて小さな回転半径に起因するものです。MPギアでは、5%に近づくあたりを境に走行のスムーズさに影響を与えるという仮説を立てましたので、この機関車も最小半径のところでは影響があったのでしょうか。

位相が揃っていなければ、駆動軸が内側にある場合、±15%近く変動しますので、もし間違えてこの構成にしていたとしたら、低速でも相当の振動になったのではないかと推測します。

後ろの台車の駆動系より、前の台車の駆動系の\(l_1\)の長さが長いことで、前の台車の角速度の変動の方が大きいのは、MPギアの時に考察した通りです。


次はSerial Number 450のShayです。こちらもrailtruckさんにいただいた図面から主要寸法を抜き出しました。このShayの特徴は、前の台車の駆動軸の寸法と、後ろの台車の駆動軸の寸法とが著しく異なることです。当然、前の台車と後ろの台車とで、角速度の変動が大きく異なることが想像されます。

これは標準軌のShayなのですが、活躍していた鉄道の曲線の最小半径に関する情報が見つかりませんでした。後述するWestern MarylandのShayが22度のカーブを走れるようにしていたという記述がありましたので、仮にこの数値を採用することとしました。こちらの情報によれば、22度のカーブというのは、半径262.042フィート(約80メートル)ということです。Western MarylandのShayに比べるとだいぶん小ぶりの機関車ですので、もっと最小半径は小さかったと想像します。もしも詳細な情報が入手できれば、後日追記します。

角速度の変動をグラフにしてみました。

いずれの場合も、角速度の変動率は1%以内には収まっていますが、これは上述したように最小半径が大きいことと、前後の寸法が違うとはいえ、ホイールベースが大きめにとってあることによると思います。

グラフでは示しませんが、最小半径を半分にしたとしても、ユニバーサルのジョイントの位相が揃っている限り角速度の変動率は2%に収まっていますので、これも大きめのホイールベースが寄与していると考えます。

ただし、前方の台車と後方の台車との駆動軸の寸法が大きく異なっていることから、前方の台車の角速度の変動は後方の台車の角速度の変動の差は大きいことがわかります。


最後は、Western MarylandのShayです。こちらは、先日書棚を整理しているときに、Train Shed Cyclopedia No.49の中に偶然見つけたものです。1945年Lima社製で、最後に製造したShayであり、かつ最大のShayです。主要寸法は下図のとおりで、これまでの2台に比べると圧倒的に大きな機関車です。前回述べたように、3つ目の台車については今回の検討対象とはしません。

上述のとおり、このShayは22度のカーブを走行できるようにしたとの記述がTrain Shed Cyclopediaの中にあります。最小半径で走行時の駆動系がどのような位置関係にあるか、を下に示します。

グラフです。

先ほどのSN 450のShayに比べても、ホイールベースはさらに大きく、駆動系の寸法にも余裕があるため、ユニバーサルジョイントの位相が揃っている場合は角速度の変動率が±1%に収まっています。実用上はほとんど問題のないレベルではなかったかと推測します。


以上、3つのShayの場合の角速度の変動を計算してみました。本当は阿里山のShayがどうやら位相が揃っていないとのことですので、どの程度の角速度の変動があるのかを確認したいのですが、正確な寸法が入手できないので、今回はここまでとします。

ユニバーサルジョイントの使い方(17) – Shayの場合のαとβとの関係を考える

このシリーズを延々続けているのは、Shayのユニバーサルジョイントの角速度の変化を解析したかったからでした。ということで、Shayの場合の\(\alpha\)と\(\beta\)とを求めてみます。

求め方はMPギアの場合に準じますが、MPギアの駆動軸が車体の中心に位置するのに対し、Shayの駆動軸は車体の中心からオフセットしていることを考慮に入れる必要があります。更に、駆動軸が曲線の内側に存在する場合と、曲線の外側に存在する場合との場合わけが必要となります。

私の入手したShayの図面で確認した範囲では、エンジンから前方の台車に動力を伝える駆動軸の寸法と、エンジンから後方の台車に動力を伝える駆動軸の寸法とは異なります。ただし、これはそれぞれについて\(\alpha\)と\(\beta\)とを求めればよいと言う事ですので、計算の方法には影響がありません。下記の議論では片方のみを取り上げます。

もう一つお断りしておくと、3(4)トラックShayになると更に2(4)つのユニバーサルジョイントを介して、後方の台車に動力が伝えられます。ここまで議論してきた事を応用すれば解析は可能ですが、今回の議論の対象外とします。

下に示したのは、半径\(r\)の円弧上をShayが走行しており、駆動軸が円弧の内側(円弧の中心に近い側)にあるときの図です。

MPギアの場合と同様、\(c_1\)と\(c_2\)とが台車の中心を、\(o\)が\(c_1\)、\(c_2\)との中心点を示します。また、線分\(c_1c_2\)の長さを\(2w\)とします。MPギアの場合と同様、台車の線路方向の中心軸は、円弧上の\(c_1\)と\(c_2\)とで接すると言う仮定をおきます。\(c_1\)に接する線分\(c_1b_1\)は、\(c_1\)と円弧の中心\(O_r\)(注:図には示していません)とを結んだ線と直交するということです。

Shayの駆動軸が車体中心に対してどれだけオフセットしているかの寸法を\(l_3\)とします。

\(o’\)は駆動軸の中心位置を、\({a_1}’\)、\({a_2}’\)はエンジン側のユニバーサルジョイントの位置を、\({b_1}’\)、\({b_2}’\)は台車側のユニバーサルジョイントの位置を示します。\({c_1}’\)、\({c_2}’\)は、それぞれ\(c_1\)、\(c_2\)から、円弧の中心\(O_r\)に向かって長さ\(l_3\)の線分を引いた位置を示します。

MPギアと異なり、\(o’\)、\({a_1}’\)、\({a_2}’\)を結ぶ直線状に\({c_1}’\)、\({c_2}’\)は存在しません。\({a_1}’\)、\({a_2}’\)から垂線を下した時に、\({a_1}’\)、\({a_2}’\)を通る直線と交差する点をそれぞれ\({d_1}’\)、\({d_2}’\)と、\({c_1}’\)、\({c_2}’\)を通る直線と交差する点をそれぞれ\({e_1}’\)、\({e_2}’\)とします。

線分\(o'{a_1}’\)の長さを\(l_1\)、線分\({b_1}'{c_1}’\)の長さを\(l_2\)、線分\({c_1}'{c_2}’\)の長さを\(2w’\)とします。線分\({c_1}'{e_1}’\)と線分\({c_1}'{b_1}’\)とのなす角を\(\gamma\)、線分\({a_1}'{b_1}’\)と線分\({a_1}'{d_1}’\)とのなす角度を\(\alpha\)、線分\({b_1}'{a_1}’\)と線分\({c_1}'{b_1}’\)を車体の中心方向に延長した線とのなす角を\(\beta\)とします。

このような前提で\(\alpha\)、\(\beta\)を求めます。まず、円弧の中心\(O_r\)と\({c_1}\)と\(o\)とがなす三角形と、円弧の中心\(O_r\)と\({c_1}’\)と、\({c_1}'{e1}’\)を車体の中心方向に延長した線と\(O_r\)、\(o\)を通る直線との交点とがなす三角形とは相似ですので、MPギアの場合と同様、

\(cos(\gamma)=\frac{w}{r}\)

が成り立ちます。

また、上記2つの三角形が相似であるということは、\(w:r =w:'(r-l_3)\)が成立するということですので、

\(w’=w\cdot\frac{r-l_3}{r}\)

が成り立ちます。

次は\(\alpha\)を求めます。

まず、線分\({a_1}'{d_1}’\)の長さは、\(w’-l_1-l_2\cdot cos(\gamma)\)となります。

線分\({b_1}'{d_1}’\)の長さは、線分\({b_1}'{e_1}’\)の長さ\(l_2\cdot sin(\gamma)\)と、線分\({e_1}'{d_1}’\)の長さ\(l_3 – l_3\cdot cos(\gamma)\)との和、\(l_2\cdot sin(\gamma)+l_3 – l_3\cdot cos(\gamma)\)となります。

\({a_1}’\)、\({b_1}’\)、\({e_1}’\)のなす直角三角形に注目すると、

\(tan(\alpha)=\frac{l_2\cdot sin(\gamma)+l_3-l_3\cdot cos(\gamma)}{w’-l_1-l_2\cdot cos(\gamma)}\)

\(=\frac{l_2\cdot sin(\gamma)+l_3-l_3\cdot cos(\gamma)}{w\cdot\frac{r-l_3}{r}-l_1-l_2\cdot cos(\gamma)}\)

が成り立ちます。

従って、半径\(r\)の円を走行中のShayのユニバーサルジョイントの\(\alpha\)と\(\beta\)とは、

\(\gamma=cos^{-1}(\frac{w}{r})\)

\(\alpha=tan^{-1}(\frac{l_2\cdot sin(\gamma)+l_3-l_3\cdot cos(\gamma)}{w\cdot\frac{r-l_3}{r}-l_1-l_2\cdot cos(\gamma)})\)

\(\beta=\alpha+\gamma\)

と求める事ができます。

次は、下図のように駆動軸が円弧の外側に来た場合の式を考えてみます。

座標や長さの考え方は、駆動軸が円弧の内側に来た場合と同じですので省略し、\(\alpha\)、\(\beta\)、\(\gamma\)をさっそく求めてみます。

円弧の中心\(O_r\)と\({c_1}\)と\(o\)とがなす三角形と、円弧の中心\(O_r\)と\({c_1}’\)と、\({c_1}'{e1}’\)を車体の中心方向に延長した線と\(O_r\)、\(o\)とを通る直線との交点と、がなす三角形とは相似ですので、

\(cos(\gamma)=\frac{w}{r}\)

が成り立ちます。また、上記2つの三角形の相似であるということは、\(w:r =w’:(r+l_3)\)が成立するということですので、

\(w’=w\cdot\frac{r+l_3}{r}\)

が成り立ちます。

線分\({a_1}'{d_1}’\)の長さは\(w’-l_1-l_2\cdot cos(\gamma)\)となります。線分\({b_1}'{d_1}’\)の長さは、線分\({b_1}'{e_1}’\)の長さ\(l_2\cdot sin(\gamma)\)から線分\({e_1}'{d_1}’\)の長さ\(l_3 – l_3\cdot cos(\gamma)\)を引いた、\(l_2\cdot sin(\gamma)-l_3+l_3\cdot cos(\gamma)\)となりますので、

\(tan(\alpha)=\frac{l_2\cdot sin(\gamma)-l_3+l_3\cdot cos(\gamma)}{w’-l_1-l_2\cdot cos(\gamma)}\)

\(=\frac{l_2\cdot sin(\gamma)-l_3+l_3\cdot cos(\gamma)}{w\cdot\frac{r+l_3}{r}-l_1-l_2\cdot cos(\gamma)}\)

が成立します。これらの式から、

\(\gamma=cos^{-1}(\frac{w}{r})\)

\(\alpha=tan^{-1}(\frac{l_2\cdot sin(\gamma)-l_3+l_3\cdot cos(\gamma)}{w\cdot\frac{r+l_3}{r}-l_1-l_2\cdot cos(\gamma)})\)

\(\beta=\alpha+\gamma\)

と導き出すことができます。

次回はこれらの式に具体的な数値を当てはめてみたいと思います。

ユニバーサルジョイントの使い方(16) – MPギアを例に |α|≠|β|の場合の具体的な数値を当てはめる

前回の議論で、MPギアに代表されるような、模型で一般的に使われる伝動機構での\(\alpha\)と\(\beta\)との関係を求めました。復習すると、下のような円弧上の曲線を走行している車両があった場合、

\(\alpha\)、\(\beta\)は、\(l_1\)、\(l_2\)、\(w\)、\(r\)から、次の順序で計算して求める事ができます。なお、電車の場合、通常は左右に駆動系を構成できると思いますので、以下の議論では、上図の左側のみを議論の対象とします。

\(\gamma = \frac{\pi}{2}-cos^{-1}(\frac{w}{r})\)

\(\alpha = tan^{-1}(\frac{l_2\cdot sin(\gamma)}{w – l_2\cdot cos(\gamma) – l_1})\)

\(\beta = \alpha + \gamma\)

また、以前の議論で、駆動面の角速度\(\omega\)が与えられたときに、\(\omega\)に対する最終伝達面の角速度の比は、以下で表されることを導き出しました。

伝達面と中継面との位相が揃っている(\(\delta=0\))の場合は

\(\frac{cos(\alpha)\cdot cos(\beta)}{cos^2(\omega t)\cdot cos^2(\beta) + sin^2(\omega t)\cdot cos^2(\alpha)}\)

伝達面と中継面との位相が90度ずれている(\(\delta=\frac{\pi}{2}\))の場合は

\(\frac{cos(\alpha)\cdot cos(\beta)}{cos^2(\omega t)+sin^2(\omega t)\cdot cos^2(\alpha)\cdot cos^2(\beta)}\)

これらの式から、\(w\)、\(l_1\)、\(l_2\)、\(r\)の値を当てはめれば角速度比がどう変動するかを求めることができます。あいにく私はMPギアを持った車両を持ち合わせていませんので、むすこたかなしさんにお願いして\(w\)、\(l_1\)、\(l_2\)の値を測っていただきました。この場を借りて御礼申し上げます。併せてわかりやすい写真もご提供いただきましたので、ありがたく使わせていただきます。

これが小田急8000系の実測値です。

\(l_1=27.7mm\)、\(l_2=26.4mm\)、\(w=85mm\)として、\(r=500mm\)の場合と、\(r=600mm\)の場合の角速度の変動をグラフ化したのが下です。

さらに、お持ちの国鉄の185系の寸法も測っていただきました。

同様に、\(l_1=34.0mm\)、\(l_2=24.5mm\)、\(w=87.5mm\)として、\(r=500mm\)の場合と、\(r=600mm\)の場合をグラフにしたのが下です。

2021/1/27追記: 下記の仮説は「ユニバーサルジョイントの使い方(27)ーMPギアの左右の角速度の差について」で考察したとおり一旦取り下げます。

<ここから>

以前、dda40xさんのBlogで、nao sekiさんから、以下のコメントをいただきました。貴重な情報をいただいたnao sekiさんには改めて御礼申し上げます。

「カツミ製2014年製の165系キット組でエンドウ製ユニバーサルジョイント(6501)を対称組にしたところ、今まではR600くらいから鳴っていたものが、篠原製6番カーブポイント(R508)でもほとんど鳴ることはありませんでした。」

同じ国鉄型であるということで、nao sekiさんのお持ちの車両が上記の185系の寸法に準じており、R600で鳴っていたものがR508でもほとんど鳴らなくなったのが角速度の変動に起因している、と仮定すると、角速度の変動率が5%に近づくあたりから、スムーズな走行に影響を与える、という仮説を立てることができます。正確には、R600で位相が揃っていない場合の角速度の変動率は±4.47%、R508で位相が揃っている場合の角速度の変動率は±4.13%となります。

本来であれば自分で実験してこの仮説を検証できれば良いのでしょうが、残念ながらそういう環境にはないので、将来そのような環境が整うことがあればチャンレジしてみたいと思います。

<ここまで>

さて、上記の2つのグラフから以下のことが言えると思います。まずは、2つのグラフに共通していることとして、1) 位相がずれている(\(\delta=\frac{\pi}{2}\))の場合、位相が揃っている(\(\delta=0\))の場合に比べて、角速度比の変動が大きいこと、2) 位相がずれている場合は、曲線半径が小さくなった場合の角速度比の変動の増加の割合が大きいこと、の2つが言えると思います。

また、2つのグラフを比べると、\(l_1\)が長くなることで、角速度比の変動が大きくなることがわかります。\(l_2\)は実物の台車のホイールベースに制約され自由度がほとんどないことを考えると、\(l_1\)をなるべく短くすることが肝要と思います。また、最初にMPギアの駆動系の構成は左右対称として考えるという仮定を置きましたが、線分\(oa_1\)の長さと線分\(oa_2\)の長さとが異なるような配置はモーターの左右で角速度の変化率が異なることになりますので、避けるべきということも言えると思います。

参考までに、上記のモハ185の場合において、\(l_1\)が角速度の変動に与える影響をグラフにしてみました。位相が揃っている場合、\(l_1\)が長くなっても角速度の変動は穏やかであるのに対し、位相が揃っていない場合、\(l_1\)が少し長くなるだけで角速度の変動に大きな影響を与えることが読み取れます。

ここまでの結論をまとめると、

  • ユニバーサルジョイントは必ず同位相とすること。
  • 角速度の変動率が±5%に近づくあたりから、走行のスムーズさに影響を与える可能性があること。 (2021/1/27追記: 上記の通り、この仮説は取り下げます)
  • モーターは可能な限り短いものとし、必ず中央に置くこと、モーターに装着するユニバーサルジョイントの位置はできる限り中央に近い位置に置くこと。

といったことが言えるかと思います。

ユニバーサルジョイントの使い方(15) – αとβとの関係の一例を考える

随分と間が空いてしまいました。きわめて忙しかったこともあるのですが、この2回後に書きたいと思っている内容をうまくまとめることできず、考え込んでいたのもあります。もう忘れ去られているかもしれませんが、これまでの議論の続きを行います。

前回は\(|\alpha|=|\beta|\)となるような \(\alpha\)と\(\beta\)との関係を考えました。端的に言うと、\(|\alpha|=|\beta|\)となるような機構を模型において実現するのは容易ではなく、\(|\alpha|\ne|\beta|\)となる状況が発生することを念頭に置かなければならない、ということです。

今回は模型で一般的に使われると思われる機構において、\(\alpha\)と\(\beta\)とが、どのような関係となるかを考察してみたいと思います。下記は、dda40xさんのblogで紹介された機構です(商品名は、エンドウのMPギア)。なお、写真はdda40xさんのblogから拝借しています。


この機構では、カーブでの台車の回転に伴って左側のC点が回転し、右側のC点との間が伸び縮みします。

以下の議論を進めるために、この機構を持った車両が円弧上を走行している状態を下図のようにモデル化します。二本の線路の中心の円弧を紫の点線が、上の写真の左側のC点から車体の端より(左側)に位置するモーターからの駆動力を車輪に伝える軸を青い実線が表します。赤の実線は上の写真の右側のC点から車体中央寄りののC点から車体中心より(右側)のモーターの軸を表し、これは車体に対して固定されています。緑の実線が2つのC点の間をつなぐBのパーツに相当し、カーブ走行時に伸縮します。

これらの位置関係を数式で表してゆきます。まず、走行中の曲線の半径を\(r\)とします。\(o\)は車体の中心の位置を、\(c_1\)、\(c_2\)は台車の中心の位置を表します。\(a_1\)、\(a_2\)は、モーター側のユニバーサルジョイントの中心の位置を、\(b_1\)、\(b_2\)は、台車側のユニバーサルジョイント中心の位置を示します。\(c_1\)、\(a_1\)、\(o\)、\(a_2\)、\(c_2\)を通る直線に対して、\(b_1\)、\(b_2\)から 垂直に線を引いたときにこの直線と交わる点をそれぞれ\(d_1\)、\(d_2\)とします。

\(c_1\)と\(c_2\)の距離、つまり線分\(c_1c_2\)の長さ、を\(2\cdot w\)とします。\(o\)は\(c_1c_2\)の中心となりますので、線分\(oc_1\)の長さは、\(w\)となります。線分\(oa_1\)の長さを\(l_1\)、線分\(b_1c_1\)の長さを\(l_2\)とします。

実際に台車が曲線でどれだけ回転するかを厳密に求めるのは簡単ではないと思いますので、\(b_1c_1\) は、半径\(r\)の曲線に\(c_1\)において接するという仮定を置きます。言い換えると、\(c_1\)は半径\(r\)の円の上にある点であり、かつ、\(c_1\)とこの円との中心\(O_r\)(注:上の図には示していません)とを結んだ線は \(b_1c_1\) と直交します。

また、\(a_1d_1\)と\(a_1b_1\)のなす角度を\(\alpha\)、\(c_1b_1\)を車体中心方向(右)に延長した線と\(b_1a_1\)とのなす角度を\(\beta\)、\(c_1d_1\)と\(c_1b_1\)のなす角度を\(\gamma\)、とします。

半径\(r\)の円弧の中心\(O_r\)と\(c_1\)、\(c_2\)とがなす三角形は、二等辺三角形となり、その底角は\(\frac{\pi}{2}-\gamma\)となります。また、底辺の\(c_1c_2\)の長さは\(2\cdot w\)、等辺\(O_rc_1\)、\(O_rc_2\)の長さは\(r\)となりますので、三角関数の定義から、

\(\frac{w}{r}=cos(\frac{\pi}{2}-\gamma)\)

が成立します。

\(b_1\)、\(c_1\)、 \(d_1\) がなす直角三角形に注目すると、線分\(c_1d_1\)の長さは\(l_2\cdot cos(\gamma)\)、線分\(b_1d_1\)の長さは\(l_2\cdot sin(\gamma)\)、であることが三角関数の定義から導けます。

\(b_1\)、\(d_1\)、\(a_1\)がなす直角三角形に注目します。線分\(a_1d_1\)の長さは、線分\(oc_1\)の長さから、上で求めた線分\(c_1d_1\)の長さ\(l_2\cdot cos(\gamma)\)と、線分\(oa_1\)の長さである\(l_1\)を引いた、\(w-l_1-l_2\cdot cos(\gamma)\)となります。線分\(b_1d_1\)の長さは上で求めた\(l_2\cdot sin(\gamma)\)でしたので、

\(tan(\alpha) = \frac{l_2\cdot sin(\gamma)}{w – l_2\cdot cos(\gamma) – l_1}\)

が成立します。

また、2つの平行な線に交わる線を引いたときの錯角同位角の関係から、\(b_1\)を起点に\(c_1o\)に平行な補助線を引くと、\(\beta = \alpha + \gamma\)が成立することがわかります。

これまでの議論をまとめると\(\alpha\)、\(\beta\)を求めるには、

\(\gamma = \frac{\pi}{2}-{cos}^{-1}(\frac{w}{r})\)

\(\alpha = {tan}^{-1}(\frac{l_2\cdot sin(\gamma)}{w – l_2\cdot cos(\gamma) – l_1})\)

\(\beta = \alpha + \gamma\)

を順に計算すればよいことがわかります。

この式から確認できることは、MPギアでは、曲線に入ると、\(|\alpha|\ne|\beta|\)という状況が発生する、つまり、台車を駆動する側の軸では、角速度の変動が必ず発生する、ということです。

次回は実際にいくつかの数値を当てはめて考察を進めます。

ユニバーサルジョイントの使い方(14) – α=βとなる条件を改めて考える

このシリーズは5~6回で終わるつもりにしていました。が、書いておいた方がよいかと思うことは次々に出てくるもので、前回まで引っ張り、ようやくおしまいと思っていたところ、またまたネタが出てきたので、あと数回続きます。ここまでの詳細な議論に興味のある方は限られていると思いますが、どこかで参考となる場面があれば幸いです。

さて、2つのユニバーサルジョイントを同位相で組み合わせ、\(|\alpha| = |\beta|\)とした場合に、駆動面と最終駆動面との基準点の角度は一致し、角速度が一致するということを述べてきました。この\(|\alpha| = |\beta|\)となる条件をもう少し具体的に見てみます。

まず考えられるのは、次の図のような場合です。ここで、右側の\(\alpha\)傾いた軸に動力源がつながり、左側の\(\beta\)傾いた軸に最終的に動力が伝達されると考えてください。また、\(\alpha\)が右下に傾き、\(\beta\)が上に傾く場合、つまりはこの図を上下に対称にひっくり返した場合は、ここでの議論と等価となりますので省略します。なお、前回と同様、\(\alpha\)、\(\beta\)とも、2つの軸のなす角度を示していますが、これらは、駆動面と伝達面とのなす角度、中継面と最終伝達面とのなす角度と同じです。

このような状態では、2つの傾いた軸は平行となります。平行な2つの線に交わる線を引いたときに錯角が等しい、というというのは中学校の数学で習う項目でした。

このことは、モーターにつながる軸と、車輪・ギアのつながる軸を絶えず平行になるようにしておけば、\(|\alpha| = |\beta|\)を実現できる、ということを意味しています。ただ、このような条件を満たすような場合は、模型に関して言えば限られるのではないかと思います。

もう一つ考えられるのは、次のような場合です。上と同様に、右下に\(\alpha\)傾いた軸に動力源がつながり、左上に\(\beta\)傾いた軸に最終的に動力が伝達されると考えてください。また、この図を上下に対称に反転させた場合も等価の議論ができますので省略します。

これが成立するのは、\(\alpha\)傾いた軸と、\(\beta\)傾いた軸と、水平の軸(2つのユニバーサルジョイントをつなげる軸)とが、二等辺三角形をなす場合であると言い換えることができます。

\(\alpha=\beta\)が成立するいくつかの例を次の図に示します。ここでは、右側の軸を水平に固定しましたが、これは模型を念頭に、モーターの伝わる軸は(車体に対して)固定されており、左側の軸がボギー台車につながっており、最終的に何らかの手段で車輪を駆動する、ということを想定しています。

この図はどういうことを示しているかというと、台車の回転する中心から等距離にユニバーサルジョイントを置くような配置ができれば、\(|\alpha|=|\beta|\)を実現することができる、ということです。

ただ、HO/16番クラスでは、ユニバーサルジョイントの距離を十分に確保できるような駆動系の配置をとることができるか、という問題が出てくると思われます。またゲージにかかわらず、駆動系のメカニズムが台車と干渉しないように駆動軸全体を床より高いところに位置させる必要がでてきます。従って、このような配置を実用的に使うことのできる場合がどの程度あるのかは、やや疑問ではあります。

ユニバーサルジョイントの使い方(13) – 具体的な数値をあてはめてみる

長々と多くの式を並べてきましたが、ユニバーサルジョイントの基準点の角度や角速度がどの程度異なってくるのかを、いくつかの数字を入れてグラフで見てみたいと思います。

ここでは、ジョイントを2度から14度まで2度ずつ変化させて見ます。2つのジョイントをつないだ場合は、\(|\alpha|=|\beta|\)とします。

2度から14度というのには明確な根拠はないのですが、16番でEF級電気をモーター一つでユニバーサルジョイントで台車に動力を伝達した場合には、これくらいの角度になるだろうということをラフな作図で得た結果です。カーブの半径は600mmを想定しています。この作図をしながらいろいろと思ったことがありますので、頭の中が整理できたら、別の稿を起こしたいと思っています。

2°から14°というのがどれくらいの角度かを直感的に理解できるように下の図を用意しました。ここでは、水平線に対する傾いた線の角度で表示していますが、これは駆動面と伝達面とがなす角度、中継面と最終伝達面とがなす角度と同じとなることはそれぞれの線に垂直な線を引けばわかると思います。

(1)ユニバーサルジョイントを1つのみ使った時の駆動面の基準点の角度\(\theta\)と伝達面との基準点の角度\(\varphi\)との関係は下の式で表されます。

\(\varphi = tan^{-1}(tan(\theta-\frac{\pi}{2})\cdot\frac{1}{cos(\alpha)})\)

\(\theta\)を\(x\)軸にとったときに、\(\varphi-(\theta-\frac{\pi}{2})\)を\(y\)軸にとったときのグラフが下の図となります。\(\alpha\)を10°程度とした時に、この差が0.5°くらいとなります。

(2)ユニバーサルジョイントを2つ組み合わせ、伝達面と中継面との位相を90度ずらした時の駆動面の基準点の角度\(\theta\)と最終伝達面との基準点の角度\(\xi\)の関係は下の式で表されます。

\(\xi=tan^{-1}(tan(\theta-\frac{\pi}{2})\cdot\frac{1}{cos^2(\alpha)})\)

\(\theta\)を\(x\)軸にとったときに、\(\xi-(\theta-\frac{\pi}{2})\)を\(y\)軸にとったときのグラフが下の図となります。ユニバーサルジョイント1ケの時に比べ、角度の差が大きくなっていることがわかります。

(3)ユニバーサルジョイントを1つ使った時の駆動面と伝達面との基準点の角速度の比は下の式で表されます。

\(\frac{cos(\alpha)}{cos^2(\omega t) + sin^2(\omega t)\cdot cos^2(\alpha)}\)

これをグラフにしたのが下図です。

(4)ユニバーサルジョイントを2つ組み合わせ、伝達面と中継面との位相を90度ずらした時の駆動面と最終伝達面との基準点の角速度の比は下の式で表されます。

\(\frac{cos^2(\alpha)}{cos^2(\omega t)+sin^2(\omega t)\cdot cos^4(\alpha)}\)

これをグラフにしたのが下図です。

\(\alpha\)を10°とすると、最終駆動面の基準点の角速度は、駆動面の基準点の角速度の±3%程度変動することとなります。

私見では、上記の±3%というのは無視はできないのではなか、とも思いますが、角速度の変動がどの範囲に収まっていれば、回転が滑らかとみなせるか、ということに関しての情報が見つけられず、今回の議論はここまでとしたいと思います。

ユニバーサルジョイントの使い方(12) – ユニバーサルジョイントを2つ組み合わせた際の角速度を計算する

2つのユニバーサルジョイントを組み合わせたときに、最終伝達面の基準点の角度\(\xi\)は、駆動面の駆動点の角度\(\theta = \omega t\)を用いて次の式となるのでした。

\(\xi=tan^{-1}(\frac{sin(\delta)+tan(\omega t)\cdot cos(\delta)\cdot cos(\alpha)}{cos(\delta) – tan(\omega t)\cdot sin(\delta)\cdot cos(\alpha)}\cdot\frac{1}{cos(\beta)})\)

これを\(t\)について微分すれば、最終伝達面の基準点の角速度を求めることができます。

見通し良く計算するために、

\(f(t)=sin(\delta) + tan(\omega t)\cdot cos(\delta)\cdot cos(\alpha)\)

\(g(t)=cos(\delta) – tan(\omega t)\cdot sin(\delta)\cdot cos(\alpha)\)

\(u(t)= \frac{f(t)}{g(t)}\cdot\frac{1}{cos(\beta)}\)

とします。すると、

\(\frac{d\xi}{dt} = \frac{d}{dt}(tan^{-1}(u(t)))= \frac{1}{1+u^2(t)}\cdot\frac{du(t)}{dt}\)

\(= \frac{1}{1 +(\frac{f(t)}{g(t)}\cdot\frac{1}{cos(\beta)})^2}\cdot \frac{du(t)}{dt}=\frac{g^2(t)\cdot cos^2(\beta)}{g^2(t)\cdot cos^2(\beta) + f^2(t)} \cdot \frac{du(t)}{dt}\)

関数の商の微分の公式は\(\frac{d}{dx}(\frac{f(x)}{g(x)})=\frac{\frac{d}{dx}(f(x))\cdot g(x) – f(x)\cdot\frac{d}{dx}(g(x))}{g^2(x)}\)ですので、

\(\frac{du(t)}{dt}=\frac{d}{dt}(\frac{f(t)}{g(t)}\cdot\frac{1}{cos(\beta)}) = \frac{1}{cos(\beta)}\cdot \frac{\frac{d}{dt}(f(t))\cdot g(t) – f(t)\cdot\frac{d}{dt}(g(t))}{g^2(t)}\)

ここまでを整理すると、

\(\frac{d\xi}{dt} = \frac{g^2(t)\cdot cos^2(\beta)}{g^2(t)\cdot cos^2(\beta) + f^2(t)}\cdot \frac{1}{cos(\beta)}\cdot \frac{\frac{d}{dt}(f(t))\cdot g(t) – f(t)\cdot\frac{d}{dt}(g(t))}{g^2(t)}\)

\(=cos(\beta)\cdot \frac{\frac{d}{dt}(f(t))\cdot g(t) – f(t)\cdot\frac{d}{dt}(g(t))}{g^2(t)\cdot cos^2(\beta) + f^2(t)}\)

となります。

ここで、\(\frac{d}{dt}(f(t))\)、\(\frac{d}{dt}(g(t))\)は、それぞれ

\(\frac{d}{dt}(f(t)) = \frac{d}{dt}(sin(\delta)+tan(\omega t)\cdot cos(\delta)\cdot cos(\alpha))=\frac{\omega}{cos^2(\omega t)}\cdot cos(\delta)\cdot cos(\alpha)\)

\(\frac{d}{dt}(g(t)) = \frac{d}{dt}(cos(\delta) – tan(\omega t)\cdot sin(\delta)\cdot cos(\alpha))=-\frac{\omega}{cos^2(\omega t)}\cdot sin(\delta)\cdot cos(\alpha)\)

となります。従って、

\(\frac{d}{dt}(f(t))\cdot g(t) – f(t)\cdot\frac{d}{dt}(g(t)) =\)

\(\frac{\omega}{cos^2(\omega t)}\cdot((cos(\delta)\cdot cos(\alpha)\cdot(cos(\delta) – tan(\omega t)\cdot sin(\delta)\cdot cos(\alpha))\)

\(- (sin(\delta)+tan(\omega t)\cdot cos(\delta)\cdot cos(\alpha))\cdot -sin(\delta)\cdot cos(\alpha)))\)

\(= \frac{\omega}{cos^2(\omega t)}\cdot cos(\alpha) \cdot(cos^2(\delta)  – sin(\delta)\cdot cos(\delta)\cdot cos(\alpha)\cdot tan(\omega t) \)

\(+ sin^2(\delta) + sin(\delta)\cdot cos(\delta)\cdot cos(\alpha)\cdot tan(\omega t))\)

\(= \frac{\omega}{cos^2(\omega t)}\cdot cos(\alpha)\cdot (sin^2(\delta)+cos^2(\delta))\)

\(sin^2(x)+cos^2(x)=1\)を利用すると、

\(\frac{d}{dt}(f(t))\cdot g(t) – f(t)\cdot\frac{d}{dt}(g(t)) = \frac{\omega}{cos^2(\omega t)}\cdot cos(\alpha)\)

を得ます。

次に\(g^2(t)\cdot cos^2(\beta) + f^2(t)\)を計算します。

\(g^2(t)\cdot cos^2(\beta) + f^2(t)\)

\(=(cos(\delta) – tan(\omega t)\cdot sin(\delta)\cdot cos(\alpha))^2\cdot cos^2(\beta) \)

\(+ (sin(\delta)+tan(\omega t)\cdot cos(\delta)\cdot cos(\alpha))^2\)

\(=cos^2(\delta)\cdot cos^2(\beta)-2\cdot tan(\omega t)\cdot sin(\delta)\cdot cos(\delta)\cdot cos(\alpha)\cdot cos^2(\beta)\)

\(+ tan^2(\omega t) \cdot sin^2(\delta) \cdot cos^2(\alpha)\cdot cos^2(\beta) \)

\(+ sin^2(\delta)+2\cdot tan(\omega t)\cdot sin(\delta)\cdot cos(\delta)\cdot cos(\alpha)\)

\(+ tan^2(\omega t)\cdot cos^2(\delta)\cdot cos^2(\alpha)\)

\(=cos^2(\delta)\cdot cos^2(\beta) + sin^2(\delta)\)

\(+2\cdot tan(\omega t)\cdot sin(\delta)\cdot cos(\delta)\cdot cos(\alpha)\cdot (1 – cos^2(\beta))\)

\(+ tan^2(\omega t) \cdot cos^2(\alpha)\cdot(sin^2(\delta) \cdot cos^2(\beta) + cos^2(\delta))\)

\(sin^2(x)+cos^2(x)=1\)を利用すると、

\(g^2(t)\cdot cos^2(\beta)+f^2(t)=\)

\((1-cos^2(\delta)\cdot sin^2(\beta))\)

\(+2\cdot tan(\omega t)\cdot sin(\delta)\cdot cos(\delta)\cdot cos(\alpha)\cdot sin^2(\beta)\)

\(+tan^2(\omega t)\cdot cos^2(\alpha)\cdot (1- sin^2(\delta)\cdot sin^2(\beta))\)

\(= 1 + tan^2(\omega t)\cdot cos^2(\alpha) – \)

\((tan^2(\omega t)\cdot cos^2(\alpha)\cdot sin^2(\delta)-2\cdot tan(\omega t)\cdot sin(\delta)\cdot cos(\delta)\cdot cos(\alpha)+cos^2(\delta))\cdot sin^2(\beta)\)

\(= 1+tan^2(\omega t)\cdot {cos}^2(\alpha) – (tan(\omega t)\cdot cos(\alpha)\cdot sin(\delta)-cos(\delta))^2\cdot{sin}^2(\beta)\)

となります。

ここまでの結果をまとめると

\(\frac{d\xi}{dt} = cos(\beta)\cdot \frac{\frac{\omega}{cos^2(\omega t)}\cdot cos(\alpha)}{1+tan^2(\omega t)\cdot {cos}^2(\alpha) – (cos(\delta)-tan(\omega t)\cdot cos(\alpha)\cdot sin(\delta))^2\cdot{sin}^2(\beta)}\)

\(= \frac{\omega\cdot cos(\alpha)\cdot cos(\beta) }{cos^2(\omega t)+sin^2(\omega t)\cdot {cos}^2(\alpha) – (cos(\omega t)\cdot cos(\delta)-sin(\omega t)\cdot cos(\alpha)\cdot sin(\delta))^2\cdot{sin}^2(\beta)}\)

我々の興味があるのは、\(\delta=0\)の場合と、\(\delta=\frac{\pi}{2}\)の場合です。

\(\delta=0\)の場合は、\(sin(\delta)=0\)、\(cos(\delta)=1\)なので

\(\frac{d\xi}{dt}=\frac{\omega \cdot cos(\alpha) \cdot cos(\beta)}{cos^2(\omega t)+sin^2(\omega t)\cdot cos^2(\alpha) – cos^2(\omega t)\cdot sin^2(\beta)}\)

\(=\frac{\omega \cdot cos(\alpha) \cdot cos(\beta)}{cos^2(\omega t)\cdot(1-sin^2(\beta))+sin^2(\omega t)\cdot cos^2(\alpha)}\)

\(=\frac{\omega \cdot cos(\alpha)\cdot cos(\beta)}{cos^2(\omega t)\cdot cos^2(\beta) + sin^2(\omega t)\cdot cos^2(\alpha)}\)

\(|\alpha| = |\beta|\)とすると、

\(\frac{d\xi}{dt}=\frac{\omega \cdot cos^2(\alpha)}{cos^2(\omega t)\cdot cos^2(\alpha)+sin^2(\omega t)\cdot cos^2(\alpha)}\)

\(=\frac{\omega \cdot cos^2(\alpha)}{(cos^2(\omega t) + sin^2(\omega t))\cdot cos^2(\alpha)}= \omega\)

となり、駆動面と最終伝達面の角速度とが等しいことが確認できました。

\(\delta=\frac{\pi}{2}\)の場合は、\(sin(\delta)=1\)、\(cos(\delta)=0\)なので、

\(\frac{d\xi}{dt}=\frac{\omega\cdot cos(\alpha)\cdot cos(\beta)}{cos^2(\omega t)+sin^2(\omega t)\cdot cos^2(\alpha)- sin^2(\omega t)\cdot cos^2(\alpha)\cdot sin^2(\beta)}\)

\(=\frac{\omega\cdot cos(\alpha)\cdot cos(\beta)}{cos^2(\omega t)+sin^2(\omega t)\cdot cos^2(\alpha)\cdot(1-sin^2(\beta))}\)

\(=\frac{\omega\cdot cos(\alpha)\cdot cos(\beta)}{cos^2(\omega t)+sin^2(\omega t)\cdot cos^2(\alpha)\cdot cos^2(\beta)}\)

仮に\(|\alpha| = |\beta|\)とすると、

\(\frac{d\xi}{dt}=\frac{\omega\cdot cos^2(\alpha)}{cos^2(\omega t)+sin^2(\omega t)\cdot cos^4(\alpha)}\)

となります。前回の議論で得たユニバーサルジョイント1つの場合の伝達面の基準点の角速度の式

\(\frac{d\varphi}{dt}=\frac{\omega\cdot cos(\alpha)}{cos^2(\omega t)+sin^2(\omega t)\cdot cos^2(\alpha)}\)

によく似た形になりますが、\(cos(\alpha)\)の次数が異なります。

かなり乱暴に言うと、ユニバサールジョイント1つの場合は、\(\frac{1}{cos(\alpha)}\)に応じて角速度が変化するの対し、ユニバーサルジョイント2つを位相を90度ずらして繋いだ場合は、\(\frac{1}{cos^2(\alpha)}\)に応じて角速度が変化する(角速度の変化が拡大される)、ということが言えるかと思います。