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Bill Brisko氏の3Dプリンタによるロストワックス技法 (4)

Bill Brisko氏の3次元プリンタによるロストワックスのクリニックの第4回目です。前回の記事のラピッドプロトタイピングの4つの技法(SLA、SLS、FDM、3次元プリンタ)の解説となります。例によって、間違いがあったり、不適切な用語の使い方など、お気づきの点は、遠慮なく指摘していただければ、と思います。


SLAプロセス
SLAは、Stereolithography Apparatusの略です。レジンに紫外線を当てると、硬化する特性を利用した造型機です。歯医者さんで、詰め物をして、おもちゃのピストルみたいなものを押し付けて固めた、という経験はありませんか?あれと同じ原理だと思います。歯医者(歯科助手)さんが、黒いメガネをしているのは、紫外線から目を保護するためです。

光造形機は、液状のレジン槽の中に、造形する物を形作る台(ステージ)がおかれ、このステージが上下する構造になっています。造形は、ステージ上の一層分の厚さの液状のレジンに紫外線のレーザーで一層分の形を描き、台を一層分下げ、次の層を描く、という作業の繰り返しになります。

[2009/6/9追記: この光造形を仕事で頻繁に使っている人から、面白いことを教えてもらいました。言われてみればなるほど、なのですが、「地震に弱い」のだそうです。地震の前後で造形の位置がずれてしまうことがあるので、「地震の直後に納品されたものは特に念入りに検査する」と言っていました。]
文章で書いてもわかりにくいと思いますので、Youtubeで見つけたアニメーションを掲載しておきます。

これは、SLAのプロセス全体を紹介するビデオです。




SLS(SMS)プロセス

SLSは、Selective laser sinteringの略で、選択的レーザー焼結法などと訳されているようです。

SLSでは、粉末をレーザーで一層分焼き固めるという操作を繰り返します。樹脂や金属の粉末など、焼き固める材料の選択肢が広いので、SLAに比べて応用範囲が広いのが特徴であるとあります。

SLSの造型機は、造形する台の上の粉末の層をレーザーで焼結させた後、台を下げ、粉末を追加し、次の層を焼結するということを繰り返します。

右の図の(A)は、粉末を供給するタンクです。これが造形を行う台(ステージ)である(B)のタンクに供給されます。その後、(B)でレーザーで一層分の造形を行い、ステージを一層分下げ、(A)から粉末の供給を受け、次の造形を行います。
SLSの原理のアニメーションもYouTubeに見つけましたので、掲載しておきます。

これは、SLSのプロセス全体を紹介するビデオです。


FDMプロセス
FDMは、Fused Deposition Modelingと呼ばれ、熱溶解積層法などと訳されているようです。

FDMでは、プラスチックなどの樹脂を熱で溶かして糸状に射出してゆきます。一層分の整形が終わったら、ステージを一層分下げ、次の整形に写ります。
これは、FDMで小さなワイングラス状のものを造形するプロセスを紹介したビデオです。




3次元プリンタ
3次元プリンタの定義は、上記のFDMを含む場合もあるようなのですが、Bill Brisko氏は、ロストワックス向けのワックスのパターンをインクジェット方式で形成するものを3次元プリンタと呼んでいるようです。以下、ここでも3
次元プリンタという言葉はこの定義に従います。

この3次元プリンタの概要は、昨年すでに紹介済みです。

基本原理は、パソコン向けのインクジェットプリンタと大きく変わることはありません。インクジェットで一層分を印刷した後、厚さを正確に出すために、表面を削り、ステージを下げて次の層を印刷する、ということを繰り返します。

造形時は、造形物となるもののインク(ワックス)と、保護する支持物のインクとの2つを使って、造形物が支持物で包み込まれるように印刷してゆきます。支持物は、印刷が終了した後に溶かします。
次回は、この3次元プリンタで造形する様子を紹介します。

さて、今回説明しなかった、というより私の手に余る話題として、支持材があります。たとえば、上記のFDMによるワイングラスの造形のビデオでは、設計した形状をそのまま造形していますが、このワイングラスがもっと大きな形になっていたら、どういうことが起こるでしょうか。ワイングラスは途中が細くなっているので、上部を造形する際に、ステージを動かした時にワイングラスが振動したり、自重で変形したりして、正確な造形ができなくなる可能性があります。

これを避けるためには、適当な支持材を入れて補強しながら造形するとか、それ以前に、造形する方向を考える、とか、もともとの部品の構成を工夫する、といったことが必要になるのだと思います。3次元CADや3次元造型機のようなものが発達したことで、作りたいものが簡単にできるようになったのは事実ですが、上記のような観点も考慮した広い意味での「設計」の重要さは変わっていないのではないかと思います。

Bill Brisko氏の3Dプリンタによるロストワックス技法 (3)

Bill Brisko氏の3次元プリンタによるロストワックスのクリニックの第3回目です。これまで2回が設計の話でしたが、今回は、「モデリング」と言う、実際のモノを形作る技法の紹介です。さて、今回の話は完全に私の専門外となります。可能な範囲で調べものをして、基本的な原理だけは理解したつもりですが、間違いがあったり、用語の使い方が不適切な可能性があります。お気づきの点は、遠慮なく指摘していただければ、と思います。

[2009/5/3追記:
(1)Stereolithographyという言葉の訳し方を修正しました。Stereolithographyという言葉は、今回紹介している各種の造形手法の総称として使う場合と、光造形(SLA)のみを指す場合とがあり、明確な定義はないようです。Bill氏のプレゼンも紛らわしいところがあります。今回は前者の各種造形手法の総称という立場に立つことにします。どういう訳語がいいのかわかりませんが、とりあえず『立体積層造形』という言い方にしてみました。このあたりの言葉の使われ方の経緯とか、詳しいことをご存知の識者の方がいらっしゃったらご教授いただければと思います。
(2)lithographyは、版画より印刷のほうが的確ということで修正しました。
※ ご指摘いただいたdda40xさんに感謝します。]


基本的なモデリング
・石や木からの削りだし – 古代
・ロウを削りだしたもののインベストメント鋳造 – 古代
・粘土や紙によるモデル – 1800年代
・プラスチックモデル – 1920年代(?)
・CNC機械 – 1970年代
・立体積層造形(ステレオリソグラフィー) – 1990年代


ここには、モデリングの歴史が簡単にまとめられています。
・CNCというのは、Computer Numerical Controlの略で、Wikipediaの定義を引用すると、「(旋盤やフライス盤などの)機械工作において工具の移動量や移動速度などをコンピュータによって数値で制御すること」を指します。
CADで設計したデータを、工作機械にそのまま投入することができるということで、工作の効率が大幅に上がりました。
さて、このプレゼンでは取り上げられていませんが、このCNCや次のスライドで述べられている各種のラピッドプロトタイピング技術を可能としたものに、制御技術の発達があると思います。最近のCNCでは、1/100ミリの精度がごく普通に出せるようなのですが、その精度を保つように工作機械を制御するのは、実は大変な技術の積み重ねがあったのは、間違いないと思います。
・「Stereolithography」という言葉は、次のスライドで紹介する各種技法の総称で使われるようですが、光造形が最初に実用化されたことから、Stereolithographyは光造形の別称として使われる場合があります。
この直訳は「立体印刷」となります。その原理を考えると、上手いネーミングと思います。印刷では、紙の上の必要なところにインクを載せる、つまり紙の上に非常に薄い層を載せます。そして、この層を何回も重ねてゆくと、立体ができることになります。
今回紹介する技法は、すべてこの考え方に基づいています。前々回、前回で紹介したソリッドモデリングという手法で物体の形状を構築した後、この物体を垂直方向に非常に薄く輪切りにしたデータを作ります。そして、この輪切りにしたデータを順番に造型機で作ってゆくことになります。
小学校のときだったか、社会科の教材で、等高線に沿った地図を切り抜いて立体地図を作ったことがありますが、原理はこれと同じと考えてもらえれば、わかりやすかもしれません。

追記: 上記の「STLファイルで物体を構築し、輪切りにする(Slicing)」ことを的確にアニメーションにしたビデオを見つけましたので紹介します。英語ですが、概要はわかっていただけると思います。


ラピッドプロトタイピング
・SLA – 光造形法(レーザーでレジンを硬化させる)
・SLS – 選択的レーザー焼結法(レーザーで粉末を焼結させる)
・FDM – 熱溶解積層法
・3次元印刷 – インクあるいは他のものによる印刷


ラピッドプロトタイピングとは、直訳の通り、高速に試作品を作ることを指します。以前は、試作品を作るには、設計者が図面を描き、試作部門のスタッフがその図面から手で作っていたのが通例でした。コンピュータや各種技術の発達で、設計者がコンピュータを使って設計したデータをそのまま造形することができるようになりました。そして、この技法は「試作」にとどまらず、ごく少量のものを生産するために応用されるようになっています。

次回は、この4つの技法の説明になります。

Bill Brisko氏の3Dプリンタによるロストワックス技法 (2)


Bill Brisko氏の3次元プリンタによるロストワックス技法の2回目です。

前回は、コンピュータの発達と、それに伴う製図/CADの発達の中で、ソリッドモデリングという3次元CADの技法が出てきたと言う話でした。今回は、代表的なソリッドモデリングソフトであるSolid Worksで作図した動輪の輪芯の紹介です。


NYC J-3a Center Driver

タイトルは、ニューヨークセントラル鉄道の代名詞であるハドソン(4-6-4)であるJ-3a用主動輪の輪芯とあります。が、私の知っているJ-3aは、建造時はBoxpox動輪で、20th Centry Limitedを引いたDreyfuss Hudson他がScullinディスク動輪を装備していたものしかありません。

ということで、スポーク動輪を装備したJ-3aというのが存在したかどうかは、不明です。Bill氏もNYCは専門外とのことで、「昔のKTMのNYCハドソン(J-3a?)で、スポーク動輪付きのものがあり、それを置き換えるために」、「(注文主から提供のあった)実物の図面から作った」そうです。

何かご存知の方の方は、ぜひご教授ください。



80″ Baldwin Disk Driver

これは、ボールドウィンの80インチのディスクドライバです。ニューヨークセントラル鉄道のライバルだったペンシルバニア鉄道の代表機種である、K-4パシフィック(4-6-2)のスポーク動輪の置き換えに使ったそうです。


Northern Pacific A-2 Driver

これは、世界で最初に4-8-4を導入したノーザンパシフィック鉄道が3番目に導入した4-8-4であるA-2の動輪です。内野日出男さんが作られた名作を思い出します。


National B-1 Truck Sideframe

これは二軸台車の台枠です。Bill氏はあくまでサンプルとして作ったもののようで、「売る気はない」とのことです。