月別アーカイブ: 2009年9月

マーク・シュッツァー(Mark Schutzer)氏のこと

しばらくお堅い話題が続いたので、また模型の話に戻ります。

もうずいぶん前になりますが、ある日のクラブに行った時のことです。見慣れぬ来訪者の脇を、あざやかなデイライト塗装のサザン・パシフィックのマウンテン(4-8-2)が走り抜けてゆくのを見てびっくり。ぱっと見てカツミ(KTM)製に間違いないことを確認しました。日本人の私としてはこれを見逃すわけにはいきません。さっそくつかまえていろいろ聞いてみました。

彼はマーク・シュッツァー(Mark Schutzer)と言い、サザン・パシフィックの大ファンで、カツミやAkaneの日本の旧いBrassの機関車を安価で手に入れては、動力系を換装し、DCC化し、ディテールアップをして楽しんでいるとのこと。私としてはどうしてカツミなのか、興味があり、聞いてみたところ、こんな答えが返ってきました。

「まず、走りの性能がいいことだ。車軸やロッドのねじの垂直がしっかり出ている。昔の韓国製のものはこの精度が十分とは言えなかった。」

「走らせるという観点に立てば、先台車の車輪径がアンダースケールになっているのも妥当な設計だと思う。スケールどおりの径にした模型を手に入れたことがあったけど、カーブでショートしてまともに走らなくて困った。結局カツミと同じ径の車輪にしたけれどね。」

「それと、何よりも値段だね。一台$300くらいだからね。安上がりだし、こういう値段で買って自分で手を加えて現代風によみがえらせるのも面白いだろ。」

なかなか粋なことをするなぁ、と感心しました。彼はNMRAPCR(Pacific Coast Region:太平洋支部)のコンテストの常連入賞者です。私がくどくど説明するよりは、彼自身のサイトを見ていただいたほうがいいと思いますので、こちらをご覧ください。私の見たMT-4の他、カツミのP-8パシフィックAkaneのキャブフォワードなどの作例があります。

また彼は、PRCの大会他で、Brassの模型のメンテナンスの仕方を何回も講義しており、そのプレゼンテーションの資料も掲載されています。全部英語ですが、写真が豊富なので見ていただければすぐにわかっていただけると思います。

カツミの模型は、日本型もほぼ類似の構造となっていますので、日本型の模型を楽しんでいらっしゃる方にも役に立つ場面があるかもしれません。

それにしても、こういった形で現代によみがえることのできる模型は幸せですね。また、30年近くたっても、こうして手を入れることで現代風に蘇るという模型もすばらしいと言えるでしょうか。

なお、許可をもらいましたので、いくつかの作例の訳を掲載してゆきます。

[2013年10月19日追記: 上記のプレゼンテーションの資料の訳をこちらに掲載しました。]

一応おことわり – カテゴリ整理しました

本日、ずっと前から直そうと思っていたカテゴリの整理を行いました。まだ、数日間修正を行うかもしれませんが、ご容赦ください。

それにしても、昔の記事を改めて見返してみると、消してしまいたい衝動にかられるものが多いですね。意味のある情報を発信することの難しさを改めて感じました。

Robert’s Rules Of Order (2)

最新版のRobert’s Rules of Order Newly Revised(以下RONR)は、全部で200ページもあり、私自身もごくごく一部しか理解していませんので、何か簡便にまとまったものがないかと思って探していたところ、「米語による公式会議運営手順」と題して、Kaz Utsumi氏が簡単にまとめられた資料を見つけました。参照、引用をお願いしたところ、ご快諾いただきましたので、「第3章 動議提出、ならびに討議の仕方」から抜粋し、紹介させていただきます。なお、下線、およびカッコ内に補足とある部分は、私が加えたものです。

—- ここより引用
(A) 動議(Motion) 提出
A会員が動議を提出する手順は立ち上がるか、又は少人数の場合、まず右手を挙げて、Mr. Chairman/Madam Chairと言い、議長に発言許可を求めます。議長:The Chair recognizes Mr. A またはA会員を指差して指名します。それからA会員は立ち上がり: Mr. Chairman/Madam Chair, I move that…… と動議を提出します。
(一部略)
そして他のB会員がSecond 又はI second the motionと言えば、議長はA会員の動議を議題として討議しなければなりません。 ここでB会員は必ずしもA会員の動議に賛成する訳ではありません、ただA会員の動議は討議するに値すると考えただけでも良く、その後の採決に不賛成投票をしても良いのです。 あるいは誰もSecondと言わなければ、議長はIs there a second to this motion? と尋ね、なおSecondがなければ、A会員の動議は議題とされません。 これは少数意見を尊重するために考え出された手法ですが、ただ一人だけの意見だと分かると、それは討議は時間の浪費ですから、動議とは成りません。
(一部略)

(B) 討議 (Discussion) 
議長はSecondと聞くと、It has been moved and seconded that ……. と動議を要約し周知させ We are now ready for discussion on the motion. 又はIs there any discussion? 討議が始まります。
(一部略)
するとC会員がMr. Chairman と挙手し、議長に発言許可を求め、The Chair recognizes Mr. C. またはC会員を指差します。C会員は賛成なり不賛成の意見を述べます。 議長は次にC会員の対立意見を他の会員に求めます。 他の会員が発言を求めている間、議長はC会員に再度発言許可を与えません(補足: 次にC会員が発言できるのは、他の発言希望者が意見を述べた後)。複数の人が同時に反対や賛成意見を述べたり、一方的な論議にならないよう、議長は賛否両論バランス良く、公平に議論を進める義務があります。

(C) 修正動議 (Amend the Motion)
討議していると、この動議は修正される必要があると考えたE会員は修正動議(Amend the Motion)の動議を提出できます。例えばA会員の動議(Main Motion)はAd Hoc Committee を作り、詳細を検討するとします。 E会員のAmendmentは誰がどのようにしてAd Hoc Committeeを作るかとします。 議論を進めていくと、F会員は何日までに作ると更なる修正動議を出します。 そして後から出てきた修正動議から順に採決を取ります(補足:この場合、F会員の修正動議、E会員の修正動議、A会員の本動議の順序で採決。Last-In, First-Outと言う)。 このような修正動議は二度までと限定されています。
正式には、三度目の修正動議には議長は Our procedure allows up to two amendments, thus your motion is out of order. と言って、三度目の修正案を拒否します。これは動議があまり複雑にならぬようとの配慮です。
—- ここまで引用

少し細かいところまで引用しましたが、有意義な議論を公平にかつスムーズに行うための工夫を感じ取ってもらえるのではないか、と思います。

このように見てくると、たかが趣味のクラブとはいえ、広く認められた議事規則を採用して運営しているということ、そして、クラブのメンバーが、RONRにしたがってスムーズな議事を進められるだけの最低限の知識を持っているということ、に驚かされます。特に後者に関し、米国では、このような議事規則に関する実践的な教育の場面が設けられているのではないか、などということを想像してします。

最後になりますが、資料の参照、引用をご快諾いただいたKaz Utsumi氏にこの場を借りて御礼申し上げます。

2009/9/10追記:
ワークスKさんより、ライオンズクラブのRobert’s Rules of Orderの解説記事の存在を教えていただきました。

Robert’s Rules Of Order (1)

私の在籍したクラブのBy Laws and Constitutionの紹介を続けてきました。Model RailroadingのBlogとしては、あまり面白いとも思えない話題を長々と続けてきたのは、私の感じたアメリカのクラブの一側面を伝えたいとの思いでとりあげたものです。これに関してもう一つの話題を書きます。

最後のシリーズの(6)で、

第8条 議事の運営方法 には、議事の進め方が書かれています。

という紹介をしました。実際の議事の雰囲気は、以前書いた記事に紹介しました。

会議は毎月1回開催されるのですが、これがまたなかなかすごくて、最初は圧倒されました。私は仕事で「国際規格標準化会議」みたいなものに出ることがあるのですが、運営の方法が全くそれと同じなのです。まず議題は「I move to … (…の動議を提出します)」と始まって、他のメンバーから「Second! (賛成)」の声があってはじめて議論が始まります。

これを読むと、いろいろと複雑な手続きが決まっていて、上で書いた第8条には、色々なことが細々と書かれていると想像されるかもしれませんが、実際には次の一文が書かれているのみです。

特に定めのない限りは、最新版のRobert’s Rules of Orderに従う

Robert’s Rules Of Orderは、米国でのさまざまな場面で会議の議事運営に標準的に採用されており、米国を中心とした各種の国際標準を決める場面でも使われている議事規則で、初版が1876年に出されており、かれこれ130年以上の歴史があるものです。

上記サイトの歴史のページによれば、陸軍で働いていたH.M. Robert氏は、たまたま地域のコミュニティの会議の議事進行を頼まれたものの、進め方がわからなくて困ったのが、Robert’s Rules of Orderをまとめることになったきっかけになったそうです。その後Robert氏は、自身で議事進行の研究を進めるとともに、全米各地で働く中で、議事進行規則が地方や参加者の出身地によってばらばらであることを認識し、標準になるものを自分で書いたのが初版となり、その後脈々と改訂が行われ、現在は第10版となっています。

日本では「ロバート議事規則」と呼ばれるようですが、本記事を書いている時点では、Wikipediaの解説の日本語版がないのを見ればわかるとおり、あまり広く知られているようには思えませんので、次回そのポイントを簡単に紹介してみたいと思います。

By Laws and Constitution (6)

引き続き、By Laws and Constitutionの紹介です。

ここまでのところで、クラブの運営方針、会員の資格、役員の仕事、定例会議の運営、を紹介してきました。第6条以降は、組織の運営にかかわるどちらかというと細かい話がまとめられており、以下簡単に説明します。

第6条 役員会 には、緊急に決めるべきことがある場合などに会長権限で召集できる役員会の召集の方法、運営の方法が決められています。
第7条 委員会 には、特命事項を検討するために委員会を設立する場合の方法が決められています。
第8条 議事の運営方法 には、議事の進め方が書かれています。
第9条 By Laws and Constitutionの修正方法には、このBy Laws and Constitutionの修正方法が述べられています。

第10条 収入と支出 には、予算の決め方、共用の支出に関する払い戻しについて書かれています。この払い戻しですが、予算外のものについては、定例会議の決議を必要とし、更に100ドル以上の支出については、定例会議での議決を必要とする、というようなことまで決められています。

第11条 解散 には、解散したときのクラブの資産の処分について書かれており、すべての負債を処理した後に残ったクラブの資産については、似たような目的を持った、免税措置を受けた団体に寄付する、ということが書かれています。今回読み返してみて、ここまで決めてあったというのを認識して、驚いた次第です。

さて、この最後の条項の「免税措置を受けた」ということについて触れてみたいと思います。

アメリカでは、すべての人に確定申告の義務があります。この際、米国の国税局であるIRSの501(c)という規約に記載されている、一定の条件を満たしたNPOに対する支出については控除の対象となります。

ご存知の方もいらっしゃると思いますが、アメリカの主要なHistorical Societyが、この501(c)(3)の認定を受けています。私がこの一連のシリーズを書くことになったきっかけは、Alco Historical & Technical Societyの設立を紹介したことにあるのですが、このAlco Historical & Technical Societyのトップページにも、「501(c)(3)の適用の申請を目指す」ということが紹介されています。

アメリカでは、寄付をする文化が発達しています。このような寄付活動は、節税ととらえられるかもしれませんが、私はむしろ、税金という形でお金を払って社会に薄く還元するよりは、寄付という形で特定の目的に支出することで、自分の信じる社会のあり方を実現する一助とする、という社会的な意味が大きいと思っています。

有名な寄付の例としては、古くは鉄鋼王カーネギーが数多くの図書館を寄付したとか、最近ではマイクロソフトの創始者のビル・ゲイツが寄付活動に専念するといったものがあり、寄付は大きな財を成した富裕層だけの話だと思われがちです。しかし、アメリカでは、上に書いたような、NPOへの支払いを控除対象にできるということで、一般市民レベルでも寄付を促進できるようになっている、ということを記しておきたいと思います。

このような仕組みが整備されているということは、私がワークスKさんの掲示板に書いた
米国では『人々が集まるためのルール作り』がしっかりしている
ということを、社会的な側面から支えている、と捉えることができると考えています。